研究課題/領域番号 |
18K08435
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
天野 将之 熊本大学, 病院, 特別研究員 (30575080)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | HIV-1 / キャプシド蛋白 / 蛋白自己崩壊 |
研究実績の概要 |
HIV-1(HIV)に必須の構造蛋白でありウイルス遺伝子を包む殻を形成するキャプシド(CA)は、ウイルス内ではウイルス遺伝子を保護する為に一定以上の強度で円錐状の殻構造を維持する。一方細胞に感染後、脱殻時にCA殻がスムーズに壊れる為には、CAが構造上、ある程度の“不安定性”を相反的に有する事が必要である。我々はこれまでアミノ酸(AA)挿入変異によるHIVの構造学・ウイルス学的特性の変容について検討を行い、CAをコードする遺伝子領域の特定部位にAA挿入変異を有するHIV変異株において、CAの異常な自己崩壊(自壊)が起こる事を発見、同現象に関して詳細に検討を行う事により、①挿入変異CAを有するHIV変異株は複製能が著しく低下・欠損し、②単独発現させた挿入変異キャプシドにおいても著しい自壊を認め、③挿入変異CAにおけるCAの自壊はCAのC末端側(CTD)を発端として経時的に進行する事など、多数の研究成果を得ており、論文発表した(Amano et al, Sci Rep, 2019)。CAの自壊現象は、軽度であるが野生型CA(CAWT)においても認められる事を我々は新たに同定、野生型HIVでのCAの自壊現象はHIVの増殖において何らかの意義を有するのではないかとの仮説のもと、CAWT及び種々の長さのAAを欠損させた変異CA発現プラスミド群を網羅的に作成し、CAの安定性に影響を及ぼす領域を評価した結果、CAのCTD側が少なくとも9AA欠損(CA CTDΔ9)するとCA自壊は生じなくなる事が判明した。本研究ではHIVの必須構造蛋白であるCAで認めるCA自壊の責任領域やその機序を検討し、更にHIVの脱殻・複製に対しCA自壊が及ぼす影響について評価するものであり、現時点では不明な点が多い感染初期、特に脱殻時におけるCAの動態に関して、新たなコンセンサスの確立に貢献し得る可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はCA領域に挿入変異を有するHIV変異株において顕著なCAの自壊が起こる事を見出した。このCA自壊はCAWTでも軽度認められ、HIV生活環において意義を有すると考えられる。本研究ではCAWTで認めるCA自壊の責任領域を詳細に検討、更にHIVの感染・増殖に対しCA自壊が及ぼす影響について評価した。CAWT発現プラスミド、CTDのAAを一部欠損した変異CA発現プラスミドを網羅的に作成、それらを強制発現させた細胞溶解液を37℃で定温静置した際の野生/欠損変異CAの経時的変化をELISA・WBで評価した。CAのCTD一部欠損変異株(HIVCA CTDΔ9)を作成し、変異株の形態を電顕で観察した。またMT-4細胞を用いて変異株の複製能を評価、更にMagi細胞を用いて変異株の感染性を評価した。環境因子を変化させる事でCA自壊への影響を検討した。その結果、CAのCTD側が少なくとも9AA欠損(CACTDΔ9)するとCA自壊は生じなくなる事が判明した。HIVCA CTDΔ9内のCA殻は野生株と比べ小型であり、CA殻の過剰凝集が疑われた。HIVCA CTDΔ9の感染性・複製能は著しく障害されており、また逆転写活性の低下を認め前期過程の障害が考えられた。溶媒中のpHを弱酸性から中性に変化させた際、CAWTにおいて自壊の増強を認めたが、CACTDΔ9ではその効果は認めず、pH変化がCTD 9AAにより惹起されるCA自壊(CA殻分解/脱殻)のトリガーとなっている可能性が示唆された。CA CTD9AAの特性がCA固有のものか、他の蛋白においても同様に惹起されるか検討するため、C末端にCAのCTD9AA配列を付加したHIVのマトリックス(MA)発現プラスミドを作成し、細胞に強制発現させた後MA安定性の変化を評価した結果MA安定性の低下を認め、CA CTD9AA配列特有の作用である事が疑われた。
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今後の研究の推進方策 |
標的細胞にHIVが新規に感染した後に起こる円錐状CA殻の脱殻に、CA CTD9AAが与える影響を更に詳細に検討するために、細胞内もしくはウイルス内において異なる環境因子(これまで検討したpH以外にも、電解質濃度や酸素濃度等)を変化させた各種条件下において、環境因子がCA CTD9AA有無でのCAの経時的な抗原性変化やウイルス複製能の相違等に影響を及ぼすか否かを評価する。更に、以下の方法で野生型HIV-1(HIVWT)及びHIVCA CTDΔ9の脱殻過程における相違を評価する。【HIV uncoating assay法】ウイルス感染細胞を回収し、洗浄後に細胞溶解液を作成、遠心により核分画ペレットを除去した後、上清をスクロース密度勾配遠心分離法により可溶性分画とペレット分画に分けて回収し、CA抗体を用いたWB 法により可溶化CAと粒子性CAの各量を調べる事で、HIVWTやHIVCA CTDΔ9におけるCA脱殻の効率を評価する。本研究で得られた知見を基にした新規抗HIV剤開発の戦略として、CACTD9AAを含む領域に特異的に結合する事でCACTD9AAの本来持つ特性を失わせ、HIVの増殖を阻害するような化合物の検索をin silico docking simulation法により行い、有望な化合物に関しては実際に購入し、MTTアッセイ法(HIV感染によって起こる細胞障害に対する化合物の阻害活性を評価可能)により抗HIV活性の評価を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
HIV-1 CA CTD9アミノ酸の有無によるHIV-1 CA殻脱殻効率の変化等に関する実験を遂行するため、また細胞内もしくは細胞外において異なる環境因子(電解質濃度等)を変化させた各種条件下において、環境因子がCA CTD9アミノ酸有無でのCAの経時的な抗原性変化やウイルス複製能の相違等に影響を及ぼすか否かを評価する実験を遂行するため、次年度に研究費を使用する。
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