本研究はHIVのコレセプターであるケモカイン受容体(CXCR4もしくはCCR5)のHIV感染時の動態を明らかにし、新たな治療手段として応用することを目的としている。以前の研究で複数のケモカイン受容体がHIV感染に必要である可能性が示唆されたため、今回はその複数のケモカイン受容体が多量体・単量体のいずれの形態を取る時にHIV感染に有利であるかの検討を行っている。 まずHIVのコレセプターであるCXCR4の多量体化に影響を与える可能性がある複数のアミノ酸残基をアラニンに置換し、この変異導入が細胞のHIVへの被感染性にどのような影響を与えるかを調べた。変異導入は細胞外ループ基部付近と膜貫通ドメインに存在するアミノ酸で、2量体形成時に接触面を形成する可能性がある部位を選択した。被感染性の評価は①fusion assayと②p24測定の2つの実験系で行うとともに、CXCR4の細胞表面の発現はフローサイトメトリーで確認した。その結果変異の導入はCXCR4の細胞表面の発現量には大きな影響を与えなかったが、変異の中には被感染性を増強あるいは減少させるものが見られた。これらの変異を複数個組み合わせたものを同様に細胞表面に発現させ、被感染性がどのように変化するかを評価した。その結果からは単量体が感染に有利である可能性が示 唆されており、現在のCXCR4に蛍光色素を結合させた発現プラスミドを作成し、FRETの系などで、変異CXCR4同士の相互作用やHIVが加わった時の変化を評価する系を作成し評価した。その結果、特定の変異が入ったCXCR4と野生型CXCR4の多量体形成は阻害される可能性が示唆され、上記の被感染性の変化を裏付けるものであった。これらの結果は今後の薬剤開発のターゲットとなりうる部位の選択に役立つものと考える。
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