本研究で用いたインフルエンザウイルスは臨床分離株であるA/Iwate/1130/2009 (H1N1pdm)を元株としたマウス馴化ウイルスである。β-プロピオラクトンで不活化し、全粒子不活化インフルエンザウイルス抗原(WIIV)を実験に使用した。2018-2019年度の研究では、アジュバント候補物質であるクロシンの安全性を確認後、WIIVのみ(単独群)、WIIVとクロシン(併用群)をそれぞれマウスに経鼻免疫し最終免疫から2週間後(短期間)の特異的免疫応答およびウイルス感染実験を行った。併用群の気管洗浄液中のIgA抗体価は単独群より有意に上昇した。感染実験では、単独群では体重減少と体温低下が認められたが併用群では有意に抑制された。感染3日後の併用群での気管洗浄液中のウイルス量は非免疫群の1/1000未満、単独群の約1/5に低下していた。 これらの結果から、最終年度では約半年のインフルエンザ流行期間で免疫が維持されているかを明らかにするため最終免疫から30週(長期間)の間隔を開けて(この間ブーストはしていない)、致死量の同株ウイルスを感染させ体重と体温を測定した。感染後、併用群でも体重減少が見られ体重が回復するまで短期間の倍の4週間を要したが、単独群に比べて体重減少が有意に抑制された。これらの結果から、長期間の免疫応答においてもクロシンはWIIVに対し効果的な粘膜アジュバントであると考えられた。さらに、抗原をHAスプリット(HA)にしてクロシンのアジュバント作用を検討した。HAのみ(単独群)、HAとクロシン(併用群)をそれぞれマウスに経鼻免疫し最終免疫から2週間後に気管洗浄液、鼻腔洗浄液、血液中のウイルス特異的抗体価を測定した。併用群での抗体価の有意な上昇は観察されなかった。詳細は明らかではないが、クロシンの粘膜アジュバント作用は抗原の性質に依存すると推測された。
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