研究課題/領域番号 |
18K08453
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
奥村 裕司 相模女子大学, 栄養科学部, 教授 (70294725)
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研究分担者 |
嶋田 昌子 相模女子大学, 栄養科学部, 教授 (30637369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高病原性鳥インフルエンザウイルス / ウイルス活性化酵素 / 膜結合型プロテアーゼ / プロテアーゼ阻害剤 |
研究実績の概要 |
申請者は、高病原性鳥インフルエンザウイルスに特異的なウイルス外膜糖タンパク質(ヘマグルチニン:HA)切断部位配列(複数の連続した塩基性アミノ酸配列:RKKR↓、KKKR↓など)を認識する宿主プロテアーゼとして、新規ウイルス活性化酵素(膜結合型プロテアーゼ:MSPL/TMPRSS13)を発見し、その酵素学的性状解析および結晶構造解析に成功した。本研究では、このMSPL/TMPRSS13の分子構造を基盤として合成した阻害剤による高病原性鳥インフルエンザ感染阻害効果の詳細を、1)MSPL/TMPRSS13安定発現細胞株(培養細胞)を用いたウイルス感染実験系に酵素阻害剤を添加した際の、ウイルスの感染増殖様式の変化、2)マウスを用いたウイルス感染実験系に、酵素阻害剤を投与した際の、ウイルス感染に及ぼす影響、3)今回開発した特異的阻害剤の構造をもとに、さらに低分子化が可能であるか否かを解析・スクリーニングし、候補化合物の効果を培養細胞系および動物実験系の両面から明確にすることを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、MSPL/TMPRSS13の分子構造を基盤として設計した阻害剤4種類の内、In Vitroでの性状評価から、最も阻害係数の高かった1種に絞り込み、その阻害剤の再合成を行ったことから、In Vitroならびに培養細胞レベルでのウイルス感染実験における再現性を確認した。製薬に携わる専門家の意見並びに想定通りの再現性が得られたことから、阻害剤の低分子化の可否の解析やスクリーニングに代わって、本阻害剤そのものの治療薬としての可能性を追求することとした。今後は、マウスを用いた個体レベルで、本阻害剤の安全性を立証するとともに、ウイルス感染実験にも取り組み、本阻害剤が高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染・増殖を制御できることを実証したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、ウイルス活性化酵素(MSPL/TMPRSS13)阻害剤による高病原性鳥インフルエンザ感染阻害効果の詳細を、1)MSPL/TMPRSS13安定発現細胞株(培養細胞)を用いたウイルス感染実験系に酵素阻害剤を添加した際の、ウイルスの感染増殖様式の変化、2)マウスを用いたウイルス感染実験系に、酵素阻害剤を投与し、ウイルス感染に及ぼす影響、3)今回開発した特異的阻害剤の構造をもとに、さらに低分子化が可能であるか否かを解析・スクリーニングし、候補となる低分子化合物の効果を培養細胞系および動物実験系の両面から明確にすることで、具体的な高病原性ウイルス感染症の新たな治療法を提案することを目的としている。しかしながら、製薬に携わる専門家の意見ならびに再合成した阻害剤が想定通りの再現性を示したことから、3)に代わって、本阻害剤そのものの治療薬としての可能性を追求することとした。この点を考慮したとしても、上記1)は目標を達成しているものの、2)および新たに設定した個体レベルでの本阻害剤の安全性の立証実験およびウイルス感染実験は、必ずしも順調に進んでいるとは言えないため、「研究目的」の達成度は「遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ウイルス活性化酵素(MSPL/TMPRSS13)の分子構造を基盤とし合成した特異的阻害剤(4種類)のIn Vitro における性状評価に関しては、これまでに想定以上の特異性を示す結果を得ている。またこれら4種類の合成阻害剤の内、阻害係数(KiやIC50値)の最も高かった1種に絞り込み、培養細胞レベルでのウイルス感染実験を行った結果も、想定した特異性を示すものであった。本年度は、今後の実験に対する必要量を確保するため、阻害剤の再合成を行ったことから、今一度、In Vitroならびに培養細胞レベルでのウイルス感染実験における再現性を確認した。製薬に携わる専門家の意見ならびに想定通りの再現性が得られたことから、阻害剤の低分子化の可否の解析やスクリーニングは行わず、本阻害剤そのものの治療薬としての可能性を追求することとした。今後は、マウスを用いた個体レベルで、本阻害剤の安全性を立証するとともに、ウイルス感染実験にも取り組み、本阻害剤が高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染・増殖を制御できることを実証したい。このことから、今後の研究の推進方策としては、まず、マウスを用いた個体レベルで、本阻害剤の安全性(副作用の有無)を立証するとともに、血中有効濃度の維持に必要な具体的な投与量の決定を行う。同時に、本阻害剤の酵素活性の阻害とウイルス感染増殖様式の変化を、マウスを用いた感染実験により評価し、本阻害剤が高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染・増殖を制御できることを実証する。最終的には、今回合成したMSPL/TMPRSS13特異的阻害剤を、高病原性鳥インフルエンザウイルスまたはそれによって派生する新型インフルエンザウイルス感染の新規治療薬として提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由(Reasons):本研究で使用しているMSPL/TMPRSS13特異的阻害剤について、計画していた動物実験を行うには阻害剤の再合成が必要であったため、今一度、In Vitroならびに培養細胞レベルでのウイルス感染実験における再現性を確認した。結果、想定通りの再現性を得たことから、本阻害剤そのものの治療薬としての可能性を追求する方針へと一部実験計画を変更したため、マウス(実験動物)を用いた個体レベルでの本阻害剤の安全性の立証実験およびウイルス感染実験が思っていた以上に進まなかったことから、動物飼育ならびに動物実験に関連する経費が当初の予定よりも少なかったため、次年度使用額が生じた。 使用計画(Usage Plan):今年度は、マウス(実験動物)を用いた、MSPL/TMPRSS13特異的阻害剤の安全性(副作用の有無)の立証実験や、消化・吸収率、半減期等を考慮した血中有効濃度維持に必要な具体的な投与量の決定実験を行うとともに、ウイルス感染実験を少しでも前に進めていくため、必要となる動物飼育ならびに動物実験に関連した経費として使用する予定である。
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