研究実績の概要 |
マウスにA型インフルエンザウイルス(PR8)を感染させた後、肺実質内には2つの免疫優性エピトープに対するCD8T細胞が主に残留する。それらのCD8T細胞は、核タンパクに由来するペプチド(NP366-374)、もしくは核酸ポリメラーゼに由来するペプチド(PA224-233)を、H2-Db拘束性をもって認識する。抗原とMHC分子の相互作用の違いが、細胞にどのような分子的性質の相違をもたらすのかを、トランスクリプトーム解析を用いて明らかにしようとした。 セルソーターを用いて単離したNP366-374/Db CD8T細胞とPA224-233/Db CD8T細胞からRNAを抽出、GeneChip Affymetrix Mouse Transcriptome-1 arraysを用いて遺伝子発現データを、Gene set enrichment analysis (GSEA)やweighted gene co‐expression network analysis (WGCNA)の手法を用いて解析した。 結果、NP366-374/Db CD8T細胞は、高度に活性化され、よりエフェクター細胞の形質を示すのに対して、PA224-233/Db CD8T細胞は、よりメモリー細胞の形質を示すことがわかった。また、PA224-233/Db CD8T細胞には、TCRシグナリング、RIG-I-likeシグナリング、NOD-like受容体シグナリング、MAPKシグナリングが強く作用しており、さらに抗菌活性タンパクであるラクトトランスフェリンを発現していることも分かった。つまり、PA224-233/Db特異的 CD8メモリーT細胞は、”組織内で病原微生物に対する警戒状態にある”ことが推察された。 NP366-374/Db CD8T細胞は、Tim3,Lag3,PD-1,CTLA4,TIGITなどの、”疲弊化”をもたらす分子が多く発現し、PA224-233/Db CD8T細胞とは、抑制のメカニズムが異なることが確認された。
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