これまでの検討により,3T3-L1脂肪細胞においては,インスリン刺激時のH2O2産生亢進にはNADPHオキシダーゼであるNox4が主要な役割を果たしていることを明らかにした。Nox4によるH2O2産生亢進のメカニズムとして,(1)インスリンによるNox4活性化,(2)Nox4へのNADPH供給量の増加,について検討した。(1)に関しては,インスリン刺激時のNox4の細胞内局在を検討した結果,Nox4は小胞体(ER)に局在したままで,細胞膜近傍へ集積すること,インスリン依存性にNox4とカベオリンが結合することが明らかになった。両者の結合はvanadate存在下でのみ見られることから,いずれかの蛋白のチロシンリン酸化に依存する結合と考えられた。チロシン残基に変異を導入したNox4 (Nox4-Y572F)を発現することにより,インスリンによるGLUT4分解促進作用が抑制されたことから,同部位のリン酸化がカベオリンとの結合およびNox4によるH2O2産生に重要であることが想定された。Nox4活性化のもうひとつの可能性として,インスリンによるホスファチジルコリン水解の関与について検討した。インスリンによるH2O2産生とGLUT4ダウンレギュレーションはホスファチジルコリン水解酵素であるPC-PLCの阻害剤により抑制された。一方,細胞内にホスファチジルコリン水解産物であるホスホコリンを投与することにより,H2O2産生の亢進が見られた。(2)に関しては,インスリン刺激時のNADPH濃度変化を蛍光プローブであるiNapを用いて検討したが,インスリンの効果は認められなかった。しかし, NADPHの主要な供給経路であるペントースリン酸経路のグルコース6リン酸脱水素酵素(G6PDH)の阻害剤によりインスリンによるH2O2産生およびGLUT4量のダウンレギュレーションは抑制された。以上の結果から,本インスリン作用の解明において,Nox4活性の制御機構とともにG6PDH活性の制御機構を明らかにすることが重要であることが示唆された。
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