研究課題/領域番号 |
18K08469
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
和田 努 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 講師 (00419334)
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研究分担者 |
笹岡 利安 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 教授 (00272906)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PDGF / 血管新生 / 肥満 |
研究実績の概要 |
血管新生因子VEGFは、脂肪組織の低酸素を改善することで炎症を軽減し、糖代謝にとって良い影響を及ぼすことから、いわば“健全な”脂肪組織肥大化を促進すると報告されている。一方我々は、PDGFRb欠損マウス(bKO)が高脂肪食負荷(HFD)に対しエネルギー消費の亢進に基づき肥満抵抗性を示すことから、肥大化脂肪組織において増加するPDGF-Bは“不健全”な脂肪組織肥大化に寄与する可能性を見出した。そこで初年度の検討として、肥大化脂肪組織における主なPDGF-B産生細胞とその誘導機構を検証した。その結果、肥満に伴い脂肪組織に浸潤する炎症性マクロファージ(Mφ)がPDGF-Bを産生し、脂肪組織での血管新生を開始させることを明らかにした。一方、VEGFは脂肪細胞より分泌され、血管新生の進展に寄与すると考えられた。 内臓脂肪組織血管の進展が個体の基礎代謝に影響することが報告されている。3か月間のHFD負荷を行ったbKOがエネルギー代謝の亢進を示すことから、bKOの基礎代謝が高くなるHFDの負荷期間を同定し、その前後での表現型を解析することは、基礎代謝亢進機構の解明に重要である。初年度の検討では、基礎代謝が亢進するHFD負荷期間を明らかにした。またその際エネルギー代謝の亢進が誘導されるメカニズムとして、内臓脂肪への脂肪蓄積が視床下部にその情報を伝える可能性、およびPDGFRb欠損による視床下部周囲の血管構造や透過性の変化に起因する可能性を評価するための検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肥満マウスの内臓脂肪において、PDGF-Bの発現は炎症性Mφにおいて顕著に高いことを見出した。マウスにMφ除去試薬を用いて検討したところ、HFD負荷マウスの血管からのペリサイト脱離と血管面積の増加が抑制された。またMφにおけるPDGF-B誘導機構として、解糖系の亢進に基づいて活性化される細胞内シグナル伝達を同定した。bKOマウスは対照マウスと比べ、HFD負荷前には基礎代謝に変化を認めないが、HFD負荷3-4週目には基礎代謝の上昇を認めた。野生型マウスにおいて、whole mount免疫染色により、視床下部には絶食で、中脳淡蒼縫線核には再摂食でc-fosが誘導される神経細胞の存在を確認した。現在、bKOの脳における血管構造と血管透過性を組織学的に評価する目的で、血管、ペリサイトの蛍光検疫染色法を用いた検討を行っている。また、内臓脂肪から視床下部への求心性交感神経を阻害するため、カプサイシン投与による神経遮断および神経線維の直接切断効果についての検証試験を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
bKOマウスが高脂肪食負荷に伴い基礎代謝の亢進を示すことから、PDGF-Bが媒介する脂肪組織血管新生は“不健全”な肥満を誘導する。一方、VEGFの過剰発現マウスは基礎代謝の亢進を誘導し、その欠損は肥満病態を増悪させる過去の報告から、VEGFが媒介する脂肪組織血管新生は“健全”な肥満を誘導すると考えられる。このように血管新生因子が基礎代謝に逆の作用を示す機構として、内臓脂肪から視床下部へ伝達される情報、視床下部近傍での血管の構造的機能的変化、脂肪血管新生の進展機構におけるPDGFとVEGFの役割の違いなどが関与すると考えている。今後の研究では、前述した検討法を確立し、その解明に挑む。特にbKOマウスはHFD負荷3-4週目と比較的早期から基礎代謝の上昇を示すことから、本時点でのマウスを解析し、内臓脂肪組織を起源とするエネルギー代謝調節連関機構の解明に取り組むとともに、肥満に伴う血管新生に対する両血管新生因子の作用点の違いが代謝におよぼす影響を解析することで、代謝的に“不健全”および“健全”な肥満の病態生理の解明を目指す。
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