研究課題
肥満対策は世界的な急務であり、その治療標的として褐色脂肪細胞(BA)が注目されている。BAの熱産生には明瞭な概日リズムが認められ、時計遺伝子はBA熱産生制御因子UCP1の発現調節にも関与することから、BAの熱産生リズムはBAの細胞内体内時計により制御されている可能性が高い。また、体内時計の障害は肥満を惹起することが知られており、その一因としてBAの体内時計障害が不適切な熱産生リズムをもたらしエネルギー消費量を低下させる可能性がある。そこで本研究は、それらの可能性を検証するために、BA特異的体内時計機能欠損マウスの作製、解析を行った。平成30年度は、まず、時計遺伝子Bmal1のfloxマウスとUcp1 Creマウスを交配させることにより、BA特異的Bmal1欠損(BA-Bmal1 KO)マウスを作製した。このマウスでは、BA特異的に体内時計機能がほぼ完全に欠損するとともに、BAにおけるUCP1の発現が亢進し、その発現リズムにも変化が認められることを見出した。平成31年度は、BA-Bmal1 KOマウスをさらに解析し、UCP1の発現増加にもかかわらず、深部体温リズムや寒冷耐性はほぼ変わらず、エネルギー消費量はむしろ低いことを明らかにした。しかも、対照マウスと比べて自発活動量は有意に増加しており、高脂肪食負荷により肥満をきたしやすいことも判明した。令和2年度は、BA-Bmal1 KOマウスでは実際にBAの熱産生が低く、通常の室温ではシバリングが増加していることを確認した。さらに、このマウスのBAでは、脂肪酸利用に関する分子群の発現リズムが障害されており、メタボローム解析を行ったところ、脂肪酸β酸化の最終産物であるアセチルCoA含量の低下や、脂肪酸同様にアセチルCoAに転換されるケト原性アミノ酸の低下が認められた。これらのことより、BAの体内時計は脂肪酸を利用した熱産生を制御しており、BAの体内時計障害は肥満の一因となることが明らかになった。
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Molecular Metabolism
巻: 49 ページ: 101202~101202
10.1016/j.molmet.2021.101202
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https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/91090