研究課題/領域番号 |
18K08478
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
細岡 哲也 神戸大学, 医学研究科, 特命准教授 (60590594)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | NASH / インスリン抵抗性 / 脂肪細胞 / LTB4 / PDK1 / FoxO1 |
研究実績の概要 |
脂肪細胞におけるインスリン作用障害は代謝異常の病態形成に重要と考えられているが、メカニズムは不明である。代表者は、インスリン作用の発現に中心的な役割を担う分子PDK1の脂肪細胞特異的欠損マウス(脂肪細胞特異的PDK1欠損マウス)を作成し、本マウスがインスリン抵抗性と耐糖能異常に加えNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)を呈すること、PDK1下流の転写因子FoxO1の脂肪細胞特異的追加欠損マウス(脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1ダブル欠損マウス)においてインスリン抵抗性と耐糖能異常、NASHが改善することを示した。両マウスを用いた統合的オミックス解析により脂質メディエーターLTB4が全身のインスリン抵抗性に関与することを明らかとした。本研究は、NASHの病態に関わる脂肪細胞由来分泌蛋白の同定、ならびに脂肪細胞におけるmTOR経路の代謝調節における意義の解明を目的とした。 脂肪組織を用いたマイクロアレイ解析において、脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスで発現量が最も増加し、脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1ダブル欠損マウスにおいてその変化が正常化する分泌蛋白としてTSP-1を見出した。TSP-1欠損マウスは、対照マウスと比較して高脂肪食環境においてインスリン抵抗性の改善に加えて肝脂肪蓄積の改善が認められた。NASHに対するTSP-1欠損効果を検討するために、現在、脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスとTSP-1欠損マウスとの交配によるTSP-1欠損バックグランドの脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスの作出を終了した。もう1つのNASHモデルとしてAMLN食負荷によるNASH誘導モデルを用いてTSP-1欠損によるNASH改善効果を検討中である。 またCRISPR-Cas9システムにより脂肪細胞特異的PDK1/TSC2ダブル欠損マウスの作出を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PDK1とTSC2遺伝子は同じ第17染色体上に存在することから、各々のfloxマウスの交配ではダブル欠損マウスは得られないため、CRISPR-Cas9システムによりPDK1-floxマウスのTSC2遺伝子座にloxPを挿入することでダブル欠損マウスを作出を試みた。しかしながら、現在のところ目的のマウスは得られておらず、再度マイクロインジェクションが必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスと脂肪細胞特異的PDK1/FoxO1ダブル欠損マウスの脂肪組織において発現量の変化する分泌蛋白としてTSP-1を見出した。TSP-1欠損マウスを用いてNASHに対するTSP-1欠損効果を2つのNASHモデル(脂肪細胞特異的PDK1欠損マウス、AMLN負荷NASH誘導モデル)において計画通り解析する。 また、遺伝学的な阻害実験に加えて、TSP-1阻害ペプチド(LSKLペプチド)によるNASH改善効果についても検証する。TSP-1は肝臓の線維化に中心的な役割を担うTGFbを活性化するが、LSKLペプチドはTSP-1とTGFbとの結合を阻害することによりTSP-1によるTGFb活性化を抑制する。脂肪細胞特異的PDK1欠損マウスあるいはAMLN食摂取マウスにLSKLペプチドを投与し、NASHに対する改善効果を検証する。 NASHの病態形成におけるTSP-1のメカニズムを明らかにするために、肝細胞、Stellate細胞、Kupper細胞の初代培養を調整し、TSP-1のリコンビナントで処理した際の脂肪蓄積や炎症、線維化に対する効果と分子メカニズムについて解析する。 CRISPR-Cas9システムにより再度マイクロインジェクションと胚移植を行い、脂肪細胞特異的PDK1/TSC2ダブル欠損マウスを作出する。
|