研究課題/領域番号 |
18K08479
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大塚 文男 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40362967)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 卵巣 / ステロイド合成 / 顆粒膜細胞 / 骨形成タンパク |
研究実績の概要 |
少子高齢化社会において、不妊を来す病態の解明は急務である。卵巣機能不全へのアプローチにおいて、視床下部―下垂体―卵巣(H-P-O)生殖内分泌調節系の分子機序は未だ十分に解明されていない。我々は、卵巣に発現し卵胞発育を調節する骨形成タンパク:BMP分子に着目して研究を進め、BMPが卵胞での細胞間コミュミケーターとして、全身ではH-P-O系モデュレーターとして機能し、卵胞発育・ステロイド合成を制御する可能性を見出してきた。前年度からの継続では、卵巣における時計遺伝子群:Bmal1, Clock, Per2, Cry1の役割をヒト卵巣顆粒膜細胞を用いて検討し、Clock-P450arom発現に正の相関関係を認め、ステロイド合成系上流の転写因子NR5A1/A2との関連も明らかになった。これらの転写因子に着目して時計遺伝子とのリンクについて検討を進めている。また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)で上昇することが知られるアルドステロン(Aldo)と受容体MRの意義についても検討した。その結果、Aldoはラット顆粒膜細胞において抑制性Smad6の発現増強を介してBMPシグナルを抑制することでFSHによるProgesterone産生能を増強した。対照的に、グルココルチコイド(Dex)による結果では、Dexは単独でも卵胞Progesterone産生を上昇する一方で、Dexは単独およびFSH存在下ともにEstradiol産生を抑制するというAldoとは異なる独自の作用を持つことが示された。現在この仕組みにリンクするBMPシグナルとについて解析中である。卵胞内BMP制御と卵巣外BMPシステムを包括的に捉えて、コンベンショナルな卵巣機能調節モデュレーターとしてのBMP分子の応用を目指して、視床下部-下垂体を含めたBMPのBioavailabilityと応用性を探求している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、ほぼ予定通りの研究を進めることができている。しかしながら、初年度の予定項目で遂行できなかったEstrogen誘導因子: Prohibitin-2蛋白についての機能解析、顆粒膜細胞転写因子Foxl2(Forkhead box L2)の転写解析、FSH受容体調節系GPCR kinase(GRK)/Arrestin の脱感作機構などの研究項目については、次年度の計画とともに遂行したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はの推進方策として、卵胞局所でなく血中に存在するBMP作用の決定から卵胞ステロイド合成調節メカニズムまで解析するとともに、リズム調節因子である時計遺伝子および日内リズム関連ホルモン、そしてステロイド合成系に関与する転写因子NR5A1/A2などの新たな分子に着目しながら、BMPネットワークに寄与する生殖内分泌への作用を検討する予定である。また、視床下部・下垂体ゴナドトロープを包括して研究を進め、視床下部Gonadotropin放出因子(GnRH)・下垂体Gonadotropin(FSH, LH)に加えて広くHPO系と卵巣局所因子との機能的なリンクについて研究を進める。卵とBMP分子群により形成される複雑な卵巣内伝達系を、細胞・組織培養系から分子生物学的に紐解き、さらに卵胞から全身へと拡大し、H-P-0系におけるBMP作動系を明らかにし内分泌調整因子として臨床応用を目指したい。そのために、性腺外組織でのBMP作用についても統合し、循環・局所両者のユニークなBMP機能に着目した分子機能解析を遂行し、その臨床展開への可能性を探りたい。全身で多彩な機能をもつBMPを生殖内分泌の病態解析ツールや創薬として臨床の場へ進化すべく分子機能解析を展開していく考えである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年開催の国際学会(米国内分泌会議ENDO2020:サンフランシスコ)での研究成果発表を予定していたが、COVID-19による国際学会キャンセルおよび国内関連学会・研究会の中止・延期などにより、予定していた出張旅費の一部が未使用となった。本年度は、継続研究と開催されれば学会での報告を予定しており、繰越額は使用予定である。
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