研究課題/領域番号 |
18K08490
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
盛田 幸司 帝京大学, 医学部, 病院教授 (30535216)
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研究分担者 |
伊藤 雅史 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (80393114)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エクソソーム / 甲状腺濾胞癌 / プロテオーム解析 / 診断マーカー / サンドイッチELISA系 |
研究実績の概要 |
本研究は術前診断が困難な甲状腺濾胞癌について、腫瘍細胞から分泌されるエクソソームをターゲットに、新しい診断システムを構築することを目的としたものである。 2018年度には倫理委員会承認の下、濾胞癌15例、濾胞腺腫51例、腺腫様結節16例、乳頭癌12例、髄様癌1例の術前後血清を確保できた。これらを元に濾胞癌5例、濾胞腺腫5例、腺腫様結節5例、乳頭癌5例の術前血清プールサンプルを作製、ホスファチジルセリン(PS)アフィニティ法にて疾患別のエクソソームを高純度に精製、トリプシン消化しiTRAQ試薬により安定同位体標識した後、nano-LCMS/MSを用いてプロテオーム解析を行い、疾患間のエクソソームタンパク発現パターンの違いを見い出した。このうち濾胞腺腫と比較して濾胞癌で発現が1.5倍以上増加するタンパクなど、濾胞癌診断に有用な可能性のある候補タンパクを複数ピックアップした。2019年度はこれらの候補の中から膜タンパクに着目し検討した。濾胞癌・濾胞腺腫・乳頭癌・腺腫様結節各3例ずつの血清から高純度エクソソームを精製、ウエスタンブロットを行い、候補タンパクの発現を確認した。次にサンドイッチELISA系の構築を検討し、エクソソーム膜上の候補タンパクの定量を試みた。濾胞癌・濾胞腺腫・乳頭癌・腺腫様結節、各5例ずつの血清で候補タンパクのELISAを行ったところ、濾胞癌や乳頭癌で高値となる傾向を認めたが、症例数が少なく有意差は確認できなかった。今後は症例数を増やし、さらに検討を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度に行った基礎的検討で、複数のヒト甲状腺癌細胞株、不死化ヒト正常甲状腺濾胞上皮細胞(Nthy-ori 3-1)がTSH受容体を発現したエクソソームを分泌していること、このTSH受容体発現エクソソームが刺激型抗ヒトTSH受容体モノクローナル抗体(M22抗体)に対し、cAMP産生へのデコイ効果をもつことを確認、報告している(Thyroid. 29(7):1012-1017, 2019)。正常甲状腺濾胞上皮細胞や甲状腺癌細胞がエクソソームを分泌すること、甲状腺に特異性の高いTSH受容体がエクソソームに発現することを確認できたことは、今後の甲状腺癌エクソソーム診断の可能性を広げる意味で意義深いものである。加えて、患者血清からの高純度エクソソーム精製、プロテオーム解析による濾胞癌診断マーカー候補の同定、サンドイッチELISA法の構築、多数例の甲状腺結節症例の術前後血清確保がいずれも順調に進んでいる。今後確保済の多数例における血清で、ELISA法による疾患間や術前後の比較解析を進めることにより、一定の結論を得る目途が立ちつつある。このため研究は概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
エクソソームに発現する候補タンパクに対するサンドイッチELISA系を用い、確保済の血清に対しより多数の解析を行う。濾胞癌・濾胞腺腫・乳頭癌・腺腫様結節の疾患間での比較や同一症例での術前後の比較をすることで、本測定系の甲状腺濾胞癌の術前診断における臨床的有用性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度の基礎的検討の中で、当初予想し得なかった新たな知見、すなわち甲状腺癌細胞と不死化正常甲状腺濾胞上皮細胞がTSH受容体発現エクソソームを分泌している可能性を示唆する知見が得られ、その論文発表を優先したことから、2018年度と2019年度の当初研究計画を変更する必要が生じた。 次年度使用額は、エクソソーム上の候補タンパクに対するサンドイッチELISA系による多数例の血清解析などに用いる。
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