研究実績の概要 |
本研究は術前診断が困難な甲状腺濾胞癌について、腫瘍細胞から分泌されるエクソソームをターゲットに新しい診断システムを構築することを目的としたものである。2018年度には基礎的検討として、複数のヒト甲状腺癌細胞株、不死化ヒト甲状腺濾胞上皮細胞(Nthy-ori 3-1)、TSH受容体を過剰発現させたHEK293細胞が、in vitroの環境下でTSH受容体発現エクソソームを分泌すること、また本エクソソーム存在下では、TSH受容体過剰発現HEK293細胞に刺激型抗ヒトTSH受容体抗体(M22抗体)を添加した際、デコイ効果によりcAMP産生が低下することを立証した(Thyroid. 29(7):1012-7, 2019)。今後の甲状腺由来エクソソーム解析に応用できる可能性のある知見を得た。並行して倫理委員会承認の下、濾胞癌5例、濾胞腺腫5例、乳頭癌5例、腺腫様結節5例の術前血清プールサンプルを作製、PSアフィニティ法にて疾患別のエクソソームを高純度に精製し、トリプシン消化しiTRAQ試薬により安定同位体標識した後、nano-LCMS/MSを用いてプロテオーム解析を行い、疾患間のエクソソームタンパク発現パターンの違いを見い出し、濾胞癌診断に有用な膜タンパク候補を複数ピックアップした。2019年度は濾胞癌・濾胞腺腫・乳頭癌・腺腫様結節各3例の血清から精製された高純度エクソソームにおいて候補膜タンパクのウエスタンブロットを行い、発現を確認した。さらに本タンパクに対するサンドイッチELISA系を構築した。2020年度は、濾胞癌12例、濾胞腺腫42例、乳頭癌10例、腺腫様結節15例の術前血清で候補タンパクのELISA測定を行ったが、濾胞腺腫より濾胞癌で高値となる傾向は見られたものの、有意差は確認できなかった。
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