研究課題/領域番号 |
18K08491
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
藤本 啓 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (40372974)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グルカゴン / 膵α細胞 / PKCδ |
研究実績の概要 |
細胞レベルの実験ではマウス膵α細胞株であるαTC1細胞を用いた。高/低グルコース、パルミチン酸添加(インスリン抵抗性惹起)条件にて明らかなグルカゴン分泌、グルカゴン、PKCδ mRNA発現に有意な差は認めなかった。また既報のようなインスリンによるグルカゴン分泌抑制やアルギニンによるグルカゴン分泌増加も認めず、現段階では当研究班のαTC1細胞は単なるグルカゴンを分泌している細胞といわざるを得ない。またαTC1細胞のグルコース分泌について論文を集めたところ高グルコース条件でグルカゴン分泌が増加する報告や当研究班のように全く変化しない報告など様々であり、現段階ではαTC1細胞のグルカゴン分泌は一定の見解が得られていないと判断できる。加えてαTC1細胞は2017年9月に培養液のグルコース濃度が11mMから5mMに変更されている。購入元であるATCCに問い合わせたところ浸透圧によるグルカゴン分泌等への影響から培養液中のグルコース濃度を変更したとの回答を得た。以上より、現段階でこのαTC1細胞を用い本研究を進めていくことは難しいと判断した。 生体レベルの実験では膵α細胞特異的PKCδKOマウスの作製、樹立証明を行った。① 遺伝子レベルではgenotypingにて同マウスの樹立を確認した。また②mRNAレベルでは膵α細胞をtdTomatoで標識しフローサイトメトリー、セルソーターにて回収。現在qPCRでPKCδのノックアウトを確認している。③蛋白レベルでは同マウスの膵切片にてPKCδの免疫染色を行いノックアウト証明を行う予定であるが、膵島でのPKCδの免疫染色に未だ一定の見解が得られていない状態である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①膵α細胞に適した細胞株が存在しない。 膵α細胞の細胞株は下記に示すようにαTC1細胞、HIT T15-G細胞、InR1G9細胞の3種類が存在している。αTC1細胞はがん遺伝子であるSV40が遺伝子導入されグルカゴノーマより樹立された。SV40はがん抑制遺伝子であるp-53やRbといった分子に結合し不活化することで細胞増殖を促進させる。近年、このSV40の存在が細胞の分化を抑制してしまうため細胞株が本来の純粋な細胞を模倣しない可能性が言われており、やはりαTC1細胞もその可能性は否定できない。またHIT T15-G細胞やInR1G9細胞はもともとインスリノーマ由来の細胞から樹立されており、これらもグルカゴンは分泌しているものの純粋なαTC1細胞を模倣しているか疑問である。つまり、現段階では適した膵α細胞株が存在していない状態である。 ②膵切片の免疫染色でPKCδの染色に再現性が得られていない。 DAB染色では膵島周囲に優位にPKCδの染色がみられたが、蛍光免疫染色では染色される場合とされない場合と現在再現性に乏しい状態である。また膵島の染色は非特異的な染色が出やすいといわれており、今回染色されたものも本当にPKCδであるかが疑わしい。
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今後の研究の推進方策 |
細胞レベルの研究 ①Ex vivoとしてIsletを用いた研究を行う。しかしβ細胞も共存するためインスリンの影響を考えなくてはならない。一説には中和抗体を用いることでインスリンの影響をキャンセルできる可能性もある。②InR1-G9細胞はインスリンに反応しグルカゴン分泌が低下する報告が最も多く、インスリノーマ由来ではあるものの同細胞で予定されていた実験を行っていく。③新しい膵α細胞の作製を行う。 生体レベルの研究 ①膵α細胞特異的PKCδKOマウスの樹立証明ではqPCRをメインに行いmRNAレベルの証明を進める。またPKCδの免疫染色にも引き続き検討していく。②樹立証明に並行し同マウスでのcharacterizationを行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
細胞レベルでの実験が膵α細胞に適した細胞株がなく一定期間研究が滞ったため。 次年度は他の膵α細胞株やisletを用い研究を進めていき、その実験の消耗品等で当該金額を使用する。
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