DNAのメチル化やヒストン翻訳後修飾といったエピジェネティクスによる脂質代謝疾患の制御機構は不明な点が多い。KDM6A/Utxはジメチル化・トリメチル化ヒストンH3K27 (H3K27me2/me3) を基質とするヒストン脱メチル化酵素であり、脂肪分化段階依存的に脂肪分化を制御することが報告されている。われわれは成熟脂肪細胞のUtxの機能に着目し、脂肪細胞特異的Utx欠損マウス(Utx cKOマウス)の解析を行った。 Utx cKOマウスは高脂肪食負荷で対照群に比べて体重が減少し、脂肪組織が縮小することを見出した。脂肪肝やインスリン抵抗性の進行が抑制されていた。網羅的遺伝子発現解析により、Utx cKOマウスの白色脂肪組織ではコレステロール・エストロゲン合成に関連する遺伝子発現が亢進していることが分かった。トリアシルグリセロール合成に関連する遺伝子発現は低下していた。 そこで卵巣由来のエストロゲンを取り除くために卵巣摘出を行ったところ、Utx cKOマウスでは同様に高脂肪食負荷による肥満が抑制された。Utx cKOマウスの内臓脂肪におけるエストロゲンの濃度は対照群に比べて上昇していた。Utx欠失白色脂肪細胞における局所的なエストロゲン産生亢進が、高脂肪食による肥満の抑制に寄与していることが示唆された。 以上の結果より、白色脂肪細胞におけるUtxが脂質代謝を制御し、肥満およびメタボリック症候群に関連することを明らかにした。Utxを介したエピゲノム制御が代謝疾患の治療標的となる可能性を示し、新規予防法・治療法開発への分子基盤を確立することができた。
|