研究課題
ドコサヘキサエン酸(DHA)は代表的なω3脂肪酸であり、生体において重要な役割を有する必須脂肪酸であることが報告されている。しかしながら、生体におけるDHA量の調節機構については不明な点が多い。本研究は、全身性にDHAが欠乏した状態では、肝臓においてsterol regulatory element binding protein 1 (SREBP1)が活性化することでDHAを含む多価不飽和脂肪酸合成酵素群の発現を高めるという、多価不飽和脂肪酸量調節のためのフィードバック機構が存在することを明らかにした。さらに、DHA含有リン脂質合成の主要な酵素である1-acyl-sn-glycerol-3-phosphate acyltransferase 3(AGPAT3)の肝細胞特異的欠損マウスを用いた解析から、肝細胞におけるDHA欠乏時のSREBP1を介した多価不飽和脂肪酸量の調節は、肝細胞自身にとどまらず、血液を介して他の臓器(とりわけ脳組織)への多価不飽和脂肪酸供給に寄与していることを明らかにした。また、逆にω3脂肪酸が豊富に食事から供給されている状況においては、肝臓のSREBP1の活性が抑制されることが知られているが、この抑制はDHA含有リン脂質の増加を介したものであることが示唆された。DHAやその他の多価不飽和脂肪酸は生体の様々な組織において重要な役割を持つ一方で、多価不飽和脂肪酸は酸化されやすく、細胞毒性を有する過酸化脂質へと変換される。したがって生体におけるその量のコントロールは厳密であると考えられてきた。本研究により明らかとなったSREBP1のDHA含有リン脂質量を介した多価不飽和脂肪酸合成酵素発現の調節は、この機構の一端を担うものと考えられる。これまでの報告から、SREBP1の過剰な活性化は肥満やがん細胞などの細胞で報告されていることから、DHA含有リン脂質量を介したSREBP1活性の調節は、脂質代謝異常関連疾患をはじめとした様々な疾患に対する新たな治療法の確立に寄与すると考えられる。
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iScience
巻: 22;23(9) ページ: 101495
10.1016/j.isci.2020.101495.