研究課題/領域番号 |
18K08496
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
南茂 隆生 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 代謝疾患研究部, 室長 (50594115)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 環境因子 / エピゲノム / 膵島 / 肥満 / 2型糖尿病 / モデルマウス / 転写因子 / エピゲノム治療 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、長期間の高脂肪食摂取による肥満モデルマウス(DIOマウス)膵島の網羅的エピゲノム解析(Diabetologia. 61:2608-2620, 2018)を基本に展開を続けている。ヒストン修飾H3K27acは活性のあるシスエレメントのマーカーであり、DIOマウス膵島で増加するH3K27ac領域は、遺伝子転写開始点の近傍に分布が多く、転写因子NRF1、MEF2A、GABPAの結合モチーフがエンリッチしていることを見出した。膵β細胞株を用いこれら転写因子の機能欠失実験を行うとグルコース刺激インスリン分泌(GSIS)試験に変化が認められることから、肥満に関連する環境リスクの存在下において代謝疾患の病態修飾を司っている因子の少なくとも一つはエピゲノム変化であるといった新しい認識が生まれた。 肥満は2型糖尿病と関連するが、そのメカニズムには不明な点も多い。本研究課題においては、自然発症2型糖尿病モデルKKマウスを用いた検討を引き続いて行っている。このモデルをケージ内で単独飼育すると、運動量が低下するにもかかわらず摂餌量が一時的に増加し、体重増加速度の増大と糖尿病の早期発症が観察された。糖尿病リスク環境下に飼育した個体のフェノタイプにはばらつきがより大きく、エピゲノム変化についても個体間の違いが観察された。環境因子の有無によりゲノム網羅的にH3K27acシグナルの差を比較すると、それぞれのH3K27ac領域は遺伝子転写開始点近傍あるいは遠位のいずれに分布するかによって変化の方向性が異なる傾向が認められた。環境因子負荷によるエピゲノム変化を是正することによって、摂餌量、体重、随時血糖、インスリン分泌能といった様々なフェノタイプのばらつきは基底のレベルに収束し、治療効果に結び付くと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
網羅的なエピゲノム解析結果を踏まえて、自然発症2型糖尿病モデルマウスのエピゲノム治療についても検討を行っており、体重増加を含めて糖尿病の病態に治療効果を見出しつつある。肥満や2型糖尿病などの代謝疾患が、環境因子に対するエピゲノム変化の問題と捉えることに帰着される可能性もあり、本研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
網羅的なエピゲノム手法による肥満および2型糖尿病の病態研究は、膵島のみならず他の責任臓器においても有用である可能性があり、全身的な理解を進めて行きたい。また、エピゲノム変化を是正しつつも、副作用のない、新規治療薬候補の探索を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の有効利用を目指した結果、次年度使用分が生じた。また、これまでの研究成果について論文作成中であり、英文校正や追加実験など完成することを目的に使用して行く計画である。
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