研究課題/領域番号 |
18K08501
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中川 祐子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90422500)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 膵内分泌細胞 |
研究実績の概要 |
膵臓は、消化液を分泌する外分泌細胞とホルモンを分泌する内分泌細胞、そして膵液を十二指腸へと運ぶ膵管からなる。この内分泌細胞で最も研究されているのβ細胞である。β細胞は、血糖値を下げるインスリンを分泌するため、その機能不全は血糖値の上昇を促し、最終的には糖尿病を発症する。 申請者は膵臓の内分泌細胞の一つであるPP細胞に着目して研究を行なっている。PP細胞とは、摂食抑制ホルモンであるPP分泌する細胞で、その機能はほとんど分かっていない。そこで申請者はPP細胞の生理的作用を明らかにする目的でPP細胞の数が変化するモデル動物の探索を行なった。その結果、グルカゴン遺伝子欠損マウス(GCGgfp/gfp)でPP細胞が増加することを見出した。GCGgfp/gfpは、グルカゴン遺伝子にコードされるグルカゴンを含む全てのホルモン産生が欠損している。このマウスでは他のグルカゴン作用不全マウスと同様に膵α細胞の過形成が起こるが知られている(Hayashi, Y. et al., Mol. Endocrinol., 2009. )。我々は、GCGgfp/gfpの膵臓の切片を用いて、PPを特異的に認識する抗体で免疫組織染色による観察を行った。その結果、2つのことを発見した。一つ目は先述のようにPP細胞が過形成していた。PP細胞は、膵内分泌細胞全体の数%程しか存在しない細胞であるが、このGCGgfp/gfpでは膵島の37.9%の細胞がPP陽性細胞であった。もう一つは PP-グルカゴン、PP-グルカゴン-ソマトスタチンなど複数のホルモンが発現する多重ホルモン産生細胞が多数存在した。野生型を用いた観察では、多重ホルモン産生細胞はほとんど出現しない。そこで現在申請者は、GCGgfp/gfpにおいて認められたPP細胞の過形成および多重ホルモン産生細胞の発現誘導のメカニズムの解明を行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グルカゴン遺伝子は、プログルカゴンタンパク質をコードしている。このプログルカゴンにより様々なホルモンが産生される。その一例がグルカゴン、GLP-1、GLP-2、グリセンチン、オキシトモデュリンである。そのため、GCGgfp/gfpでは、これら全てのホルモンが欠損してため、今回、見出したPP細胞の過形成および多重ホルモン産生細胞の出現がどのホルモンの欠損によるものかは不明である。そこで、まず、本研究ではどのホルモンの欠損に由来するものかを明らかにするために検討を開始した。最初のターゲットとして、グルカゴンを選択した。グルカゴンの作用ついては多くの研究がなされ、特にグルカゴン作用不全によりα細胞の過形成が誘導されることはよく知られている。グルカゴンは肝臓に作用し、アミノ酸の異化を促進する。そのため肝臓でのグルカゴン作用が欠損すると、アミノ酸の異化が抑制され、血液中のアミノ酸が上昇する。この上昇したアミノ酸がシグナルとなり、α細胞でmTORが活性化され、細胞増殖が加速し、その結果α細胞が過形成する。PP細胞も同様のメカニズムで過形成するのか否か検討を行なった。検討には、グルカゴン受容体のFloxマウスを作出した。その後、全身性にグルカゴン作用を抑制するためにCAG-Creマウスとこのグルカゴン受容体のFloxマウスを交配した。GCG-Flox:GCG-Creマウスでは、PP細胞の過形成が認められた。この結果はグルカゴン作用不全によりPP細胞の過形成が誘導されることを示唆するものである。次に肝臓でのグルカゴン作用不全がPP細胞の過形成を誘導するか否か検討した。その結果、肝臓での作用不全では、PP細胞の過形成が誘導されないことが示唆された。今後は、どこの組織でのグルカゴン作用不全がPP細胞の過形成を誘導するのかを明らかにしてゆく。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究の結果、GCGgfp/gfpで観察されたPP細胞の過形成はグルカゴンの欠損によるものであることが示唆されたが、グルカゴン作用不全によって引き起こされるα細胞の過形成とは違うメカニズムで起き得ることが考えられる。すなわち、肝臓でのグルカゴン作用不全が血中のアミノ酸上昇を促し、それによりα細胞が過増殖するのというメカニズムとは異なり、PP細胞は独自の増殖機構により過形成が誘導されると予想される。そこで、どこの組織のグルカゴン作用不全がPP細胞の過形成を誘導するのかを明らかにすることとした。現在、申請はPP細胞でのグルカゴン作用不全がPP細胞の過形成を誘導するのではないかと仮定し検討の準備を行なっている。具体的には、PP細胞で特異的にしかも誘導的にグルカゴン受容体の発現を抑制させるマウスを作製中である。またこのマウスはlineageをおうことができるようレポーター遺伝子を導入している。このマウスが完成し次第、PP細胞でのグルカゴン作用とPP細胞の過形成に関連が見られるかどうか明らかにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度は今年度に引き続きマウス作製およびその維持に費用がかかることが予想される。したがって、次年度の直接経費が必要であると予想されたため次年度使用額(B-A)が0より大きくなった。
|