研究実績の概要 |
生体内において、各臓器は正常機能を維持するため、細胞の量とその運命を厳密にコントロールする。膵臓の内分泌組織である膵島でも他の組織と同様にα、β、δ、PPの4種類の細胞の量がそれぞれ決められており、その細胞増殖の制御と細胞運命維持の破綻が糖尿病等の発症へと直結する。PP細胞は膵島内分泌細胞の僅か数パーセントを構成する細胞であり、その機能はほとんど解明されていない。申請者は膵臓の内分泌細胞の一つであるPP細胞に着目して研究を行なっている。PP細胞とは、摂食抑制ホルモンであるPP分泌する細胞で、その機能はほとんど分かっていない。そこで申請者はPP細胞の生理的作用を明らかにする目的でPP細胞の数が変化するモデル動物の探索を行なった。その結果、グルカゴン遺伝子欠損マウス(GCGgfp/gfp)でPP細胞が増加することを見出した。GCGgfp/gfpは、グルカゴン遺伝子にコードされるグルカゴンを含む全てのホルモン産生が欠損している。このマウスでは他のグルカゴン作用不全マウスと同様に膵α細胞の過形成が起こるが知られている(Hayashi, Y. et al., Mol. Endocrinol., 2009. )。我々は、GCGgfp/gfpの膵臓の切片を用いて、PPを特異的に認識する抗体で免疫組織染色による観察を行った。その結果、2つのことを発見した。一つ目は先述のようにPP細胞が過形成していた。PP細胞は、膵内分泌細胞全体の数%程しか存在しない細胞であるが、このGCGgfp/gfpでは膵島の37.9%の細胞がPP陽性細胞であった。もう一つは PP-グルカゴン、PP-インスリン、PP-グルカゴン-ソマトスタチンなど複数のホルモンが発現する多重ホルモン産生細胞が多数存在した。野生型を用いた観察では、多重ホルモン産生細胞はほとんど出現しない。そこで現在申請者は、GCGgfp/gfpにおいて認められたPP細胞の過形成および多重ホルモン産生細胞の発現誘導のメカニズムの解明を行なっている。
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