移植医療や創薬への応用に向けて、ヒト幹細胞(ヒトES/iPS細胞)から膵細胞を作製する研究が精力的に進められている。発生学の知見に基づき、様々な膵細胞を分化誘導することが可能となってきたが、不安定な作製効率や、目的外細胞の混入など解決すべき課題が多くある。その原因の一つとして、膵臓の基となる膵芽細胞への分化機序の全貌が不明であることが挙げられる。本研究では、膵芽細胞に特異的なマーカー遺伝子NKX6.1を指標として、ヒトiPS細胞から膵芽細胞への分化を調節する分子を網羅的に探索・同定し、その役割を解明することを目的としている。 膵芽細胞への分化に関わる分子を同定するために、siRNA導入による網羅的な遺伝子発現抑制スクリーニング系を構築し、発現を抑制することでNKX6.1陽性細胞への分化を阻害する分子候補を得た。当該分子の発現抑制は、膵芽の他のマーカーであるPTF1Aの発現も抑制するが、既知のNKX6.1の上流分子の発現は低下させていないことから、膵芽への分化を調節する新規の上流分子であると考えられた。また、分化誘導過程における遺伝子発現変化を観察したところ、当該分子は、膵芽への分化段階で発現が上昇していた。さらに、遺伝子導入によって発現量を一時的に増加させたところ、NKX6.1やPTF1Aの発現量が増加した。これらの結果から、当該分子が膵芽細胞への分化誘導の引き金としての役割を担うと考えられた。本研究成果は原始腸管からの肝・胆・膵・腸管を区別した分化の機構解明に寄与するものと考えられる。
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