栄養変化に対して、膵内分泌細胞がどのような挙動を示すかは不明な部分が多い。従来の研究で、低炭水化物/高蛋白食(LC/HP食)長期間摂餌マウス(C57/BL6j)では、膵全体の膵島でα細胞の著明な増加と脂質エネルギー利用が亢進することがわかっていた。本研究では、主にマウス膵α細胞機能制御におけるLC/HP食の急性効果を解析した。摂餌開始2~10日後に、対照群に比し、血糖値に有意差を認めなかったが、開始2日後に最も顕著となる肝グリコーゲン含量低下、血中グルカゴン増加とインスリン低下、膵α細胞量の約2倍の増加、主に膵管周囲に多数のグルカゴン陽性細胞塊出現、その近傍膵島周囲でのα細胞出現、内臓脂肪量の有意な減少を確認した。これらの結果より、膵管近傍細胞からα細胞が分化新生したものと推測された。また、この様なα細胞新生像には局在が見られ、抗Tyrosine hydroxylase抗体で確認される交感神経の分布と一致した。そこで、自律神経系による調節を想定して、肝求心性迷走神経遮断や6-hydroxydopamineによる膵内交感神経薬理学的遮断をマウスで行うと、LC/HP食負荷によるα細胞新生・増殖が認められず、α細胞量増加は完全に抑制された。一方、β細胞に対する系譜解析ではβ胞からα細胞への分化転換は観察されず、β細胞増殖能および細胞量にも変化は認められなかった。以上の結果から、比較的短期間のLC/HP食で誘導される、肝臓を起点とする神経ネットワークを介した新たな膵α細胞量制御機構の存在が判明した。さらに、長期間のLC/HP食摂餌マウスでは、褐色脂肪組織において脂肪分解およびβ酸化に関連する遺伝子発現が増加し、精巣上脂肪組織において熱産生に関わるUCP1の発現が顕著に増加した。すなわち、脂肪組織における脂質利用亢進と熱産生亢進が示唆され、インスリン感受性が増加すると考えられた。
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