研究課題
これまでに我々は、HDL代謝、特にABCA1遺伝子発現と脂肪毒性が膵β細胞に及ぼす影響について、特に細胞内情報伝達系に焦点をあて網羅的に検討してきた。TNF-αによる様々な細胞内情報伝達系の網羅的な解析を行うことで、細胞内情報伝達系P38-MAPKγを同定した。TNF-α―P38-MAPKγの活性化は、コレステロール排出分子であるABCA1発現を抑制することで膵β細胞に脂肪毒性を誘導すること発見した(J Mol Endocrinol. 2018 Aug 21.)。Angiotensin IIは膵β細胞からのインスリン分泌を抑制することが報告されているが、その原因として膵β細胞の脂肪毒性が関与することを見出した。Angiotensin IIはAT1受容体を介してPI3K/Akt/FoxO1の細胞内情報伝達系カスケードを介してABCA1発現を抑制することを明らかにした。そこでAT1受容体阻害薬が膵β細胞の脂肪毒性を解除する可能性について報告した(J Lipid Res. 2018 Aug 1)。脂質異常症の治療薬である高選択性PPARαモジュレーター(Selective Peroxisome Proliferator-Activated Receptor Modulatorα:SPPARMα)K-877は核内転写因子であるPPAR-αを活性化する。本研究は、K-877が膵β細胞におけるABCA1遺伝子プロモーターを活性化し、脂肪毒性を解除し、glucose-dependent insulin secretion(GSIS)を回復させる機構について、in vitro, in vivoの研究で解明し論文発表している(Eur J Pharmacol. 2018 Sep 7)。
1: 当初の計画以上に進展している
膵ベータ細胞の脂肪毒性をきたすメカニズムの解析(2編J Mol Endocrinol、J Lipid Res)、治療方法に関する論文(1編Eur J Pharmacol)をすでに報告することができた。
糖尿病の主因の一つはインスリン分泌不全である。我々は、インスリンの作用不足であり、進行した病態では膵β細胞からのインスリン合成/分泌不全が生じる。代替え医療としてインスリン自己注射療法が普及しているが、生体内で行なわれているような狭い範囲での血糖の調節は不可能である。我々は、基礎的な研究として脂質代謝、特にHDL代謝の研究を行ってきた。HDLは細胞より余剰のコレステロールを引き抜き、肝臓へ転送するコレステロール逆転系を仲介している。さまざまな細胞にはコレステロールを引き抜くABCA1遺伝子が発現しているが、コレステロールの引き抜きによる細胞内コレステロール含量の調節をおこなっている。膵β細胞においては、コレステロール含量が増加することでグルコース依存性インスリン分泌が障害されることが判明した。本実験の特徴は、膵β細胞のコレステロール含量を調節するABCA1の発現調節メカニズムを解明し、加えてコレステロール蓄積によるインスリン分泌不全のメカニズムを網羅的に解析し、最終的にはHDL代謝, ABCA1代謝を賦活することによる膵β細胞の脂肪毒性解除の新たな治療ストラテージを確立することにある。具体的な治療方法について研究を進めていく予定である。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (3件)
Eur J Pharmacol
巻: 838 ページ: 78-84
10.1016/j.ejphar.2018.09.015
J Mol Endocrinol
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J Lipid Res
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American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism
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10.1152/ajpendo.00134.2018
PLOS ONE
巻: 13 ページ: 198142~198142
10.1371/journal.pone.0198142