研究課題
我々は、2型糖尿病のみを対象にしたコホートとしては、世界最大規模であると同時に、観察期間の点でも最長(観察期間の中央値が10 年を超えている)の研究である「2型糖尿病患者におけるアスピリン の動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究(Japanese primary Prevention of atherosclerosis with Aspirin for Diabetes :JPAD)」を継続してきた。腎不全の発症・進展には蛋白尿、クレアチニン値、estimated glomerular filtration rate (eGFR) が良い指標であり、主に、血糖コントロールと血圧コントロールが糖尿病患者の腎症発症に関連していると考えられている。慢性腎不全から透析に至る患者は増加の一途をたどっている。そのうち糖尿性腎症が原因であるものが40%以上となっている現在において、糖尿病からの腎不全の発症、透析への移行を防止するのは喫緊の課題である。我々は、これまで継続してきたJPAD コホートを用いて、HbA1cレベル及び血圧レベルと蛋白尿の発症・進展及びeGFRの変化との関連を検討する。JPAD 研究対象者の登録時の臨床的特徴は、糖尿病の罹病期間が平均7年、登録時のHbA1c(JDS)が平均7.1%、高血圧の合併が58%、顕性糖尿病性腎症が15%であった。このような集団を対象とするJPAD研究対象者から、脳・心・血管イベントの予後調査の同意を得て、JPADコホートを構築して現在フォローしている。本研究においてHbA1cレベル及び血圧レベルと蛋白尿の発症・進展及びeGFRの変化との関連を検討し、血糖・血圧コントロールの目標値設定を行う。また、レニン・アンジオテンシン系抑制薬の腎不全進展抑制効果について検討を行う。
2: おおむね順調に進展している
JPAD研究では熊本大学を中心とした全国の対象施設の調査を熊本大学チームが行ってきており、奈良県立医科大学を中心とした関連施設の調査を奈良医科大学チームが行ってきている。JPADの統計解析は兵庫医科大学の解析チームがずっと行ってきている。血圧は患者登録時点から経時的に調査し、これまでの各対象患者の血圧の推移は判明している。以前からHbA1cやクレアチニン値も調査されており、現在、2017年度の調査データの回収が終了した状況で、全患者のeGFRを算出し経時変化を検討中である。さらに2019年度の調査では、透析への移行についても調査を行う。調査方法は、日本全国の調査対象施設の担当医へ調査表を送り、記載して返却してもらう。返却してもらった調査表を熊本大学及び奈良県立医科大学の担当者が入力を行う。調査用紙の記載漏れがある場合及び追加の情報が必要な場合には、再度各施設の担当医へ詳細な問い合わせを行う。入力が完了したら、これまでの追跡調査結果と合わせて兵庫医大で解析する。対象施設での調査の協力が得られにくい場合は関係者を派遣して調査のサポートをしてもらうことでできるだけ多くの対象患者のデータを入手する。2019年度調査の結果も加えて、血糖・血圧コントロール目標値とeGFRの変化および透析移行率の関連性、さらにレニン・アンジオテンシン系抑制薬の腎不全進展抑制効果を検討する。
本研究では、1継時的に測定されたヘモグロビンA1cの平均値と蛋白尿の有無及び増悪の有無及びeGFRの変化、2継時的に測定された血圧の平均値と蛋白尿の有無及び増悪の有無及びeGFRの変化、3蛋白尿の発現・増悪を抑制できるヘモグロビンA1c値と血圧値の組み合わせ、4レニン・アンジオテンシン系抑制薬を含まない降圧薬による蛋白尿発症・進展・腎機能悪化の抑制効果について検討を行い、透析移行抑制のための血糖・血圧コントロール目標値とレニン・アンジオテンシン系抑制薬の腎不全進展抑制効果についてエビデンスを創出する。現在、熊本大学、奈良県立医科大学、兵庫医科大学の協力体制はしっかりしており、順調に進んでいる。
2018年度末に購入を予定していた各施設との連携のための物品の購入が不要となった。2019年度に調査を行うにあたり2019年度にその分の予算を充てることとなった。
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Journal of Cardiology
巻: 73 ページ: 33-37
10.1016/j.jjcc.2018.05.017.