研究課題
2型糖尿病のみを対象にしたコホートとしては、世界最大規模の研究の1つである「2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究(Japanese primary Prevention of atherosclerosis with Aspirin for Diabetes :JPAD)」を継続してきた。慢性腎不全から維持透析に至る患者は増加の一途をたどっている。そのうち糖尿性腎症が原因であるものが40%以上となっている現在において、糖尿病からの腎不全の発症、維持透析への移行を防止するのは喫緊の課題である。熊本大学を中心とした全国の対象施設の調査を熊本大学チームが行ってきており、奈良県立医科大学を中心とした関連施設の調査を奈良医科大学チームが行ってきている。JPADの統計解析は兵庫医科大学の解析チームがずっと行ってきている。血圧は患者登録時点から経時的に調査し、これまでの各対象患者の血圧の推移は判明している。HbA1cやクレアチニン値の調査も継続的行われている。現在2019年度の調査票回収が終了し、調査内容の再問い合わせを行ってデータを確定している状況である。2019年度調査では調査した血清クレアチニン値から推算糸球体濾過率(estimated glomerular filtration rate(eGFR))を算出し、透析移行者についても調査も行っている。全国の開業医の先生からデータ収集を行うことを考慮し、腎不全の発症・進展の指標として蛋白尿の定性試験結果を調査対象とすることで大部分の症例のデータを確保できている。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は以前までのデータから2536人の対象患者のうち初回の調査で蛋白尿検査がされていない42人を除いた2494人を蛋白尿の有無で2群に分けて検討したところ蛋白尿あり群446人において蛋白尿なし群2048人よりも有意に心血管イベントが多いことを報告した。この有意性は2群間の年齢、性、body mass index、ヘモグロビンA1cレベル、糖尿病罹病期間、推算糸球体濾過率(eGFR)を調整しても変わらなかった。このように、蛋白尿に関連して論文発表を行ったこと、目標のデータを2019年度の調査で収集できたことで本研究最終年度の2020年にしっかりとした解析結果が出せると考える。現在、データ確定のための調査内容の再問い合わせを行っている状況である。
以前からHbA1cレベル、血圧レベル、蛋白尿レベルについて継続して調査してきている。2019年度の調査では血清クレアチニンレベルおよび透析移行した症例についても確認している。今後は慢性腎不全の発症・進展状況を確定し、HbA1cレベル、血圧レベル、蛋白尿レベルがクレアチニンレベルから算出される推算糸球体濾過率(eGFR)の変化および透析移行に及ぼす影響を検討する。また、降圧薬の中でもレニン・アンジオテンシン系抑制薬は蛋白尿の改善効果があることが知られている。糖尿病患者の治療において腎不全の発症・進展を防止するいくつかのエビデンスがある状況で糖尿病患者の降圧薬がどのようになっているのかを検討する。レニン・アンジオテンシン系抑制薬の使用状況についてはデータを有しており、それがeGFR低下を抑制できるかを検討することで腎不全の発症・進展を防止することができているのか、透析移行を減らせているのか検討を行っていく。
現在も流行中のコロナウイルス感染拡大に伴い、3月に予定していた日本循環器学会での演題発表が延期になったことおよび同じく3月に予定していたJPAD研究チームの京都でのミーティングが中止になったことが、予算を繰り越すことになった大きな要因である。また、熊本大学循環器内科および熊本大学保健センターの協力により物品購入を抑えることができたことも大きなもう一つの要因である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Cardiology
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Diabetes Care
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