研究課題
摂食関連ペプチドであるニューロメジンU (NMU) ならびにニューロメジンS(NMS)は摂食やエネルギー代謝調節機構のみならず、サーカディアンリズムの調整など、様々な生理機能に関与している。最近では、NMU/NMSシステムと脳内高次機能との関連が注目されているが、その詳細に関しては未だ明らかになっていない。本研究では、我々はNMU/NMS両遺伝子欠損マウス(NMU/NMS dKOマウス)を作製し、予備実験にて脳内高次機能に関与する一連の行動実験をおこなったところ、恐怖条件付け試験にてNMU/NMS dKOマウスでの予期不安増強が認められた。この結果をもとに本研究では、脳内NMUシステムのストレス応答ならびに認知機能における生理機能の解明を目指している。本年度は、NMU/NMS dKOマウスならびに野生型マウスにて受動回避試験を行ったところ、暗箱における電気ショック1日後において、NMU/NMS dKOマウスで著しい恐怖記憶の増強が認められた。電気ショック7日後では、野生型マウスでは恐怖記憶の減弱が認められたが、NMU/NMS dKOマウスでは恐怖記憶は保持されたままであった。さらに電気ショック28日後においてもNMU/NMS dKOマウスでは強い恐怖記憶が保持されていた。行動実験系に加え、ストレスの指標となる血清コルチコステロン動態に関しても、電気ショック28日後のNMU/NMS dKOマウスでは、野生型マウスに比べ、明らかなコルチコステロン値の上昇が認められた。現在、NMU/NMS dKOでの恐怖記憶保持・増強機構に関して、c-Fos蛋白質を指標とした神経活性化部位の同定や同脳部位での神経細胞樹上突起の性状の解析、神経成長因子の発現動態解析や関連部位の脳内神経伝達物質動態の解析などの詳細な検討をおこなっており、今後は本機構の分子レベルでの解明を進める計画である。
2: おおむね順調に進展している
NMU/NMS dKOマウスならびにコントロールマウスを用いて、受動回避試験を行ったところ、NMU/NMS dKOマウスにて明らかな恐怖記憶増強が認められ、ストレスの指標となる血清コルチコステロン動態に関しても、電気ショック28日後にもかかわらずNMU/NMS dKOマウスで著しい高値を認めた。以上のように、本年度は恐怖記憶形成におけるNMU/NMSシステムの関与が明確となった。次年度はこれらの知見をもとに詳細な分子レベルでの解析に進むことが可能となるため、順調に経過していると思われる。
本年度は行動実験での恐怖記憶形成に関する表現型の検証ができたため、次年度はその分子レベルでの解析を中心におこなう計画である。まず、受動回避試験時の神経細胞の活性化部位をc-Fos蛋白質を指標に免疫組織学的に解析し、NMU/NMS dKOマウスと野生型マウスでの脳内活性化部位の相違を検証する。同定された脳部位を中心に、電気ショック後の各タイムポイントにおける神経伝達物質や神経栄養因子、グリア細胞のマーカー、サイトカインなどを中心にHPLCやwestern blotting, qPCR、ELISAなどを駆使して解析する。さらに、恐怖記憶に関して、標的脳部位での神経の可塑性などに関しても検討する予定である。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 525 ページ: 129~134
10.1016/j.bbrc.2020.02.066
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Cell Res. 2019 Jul;29(7):579-591. doi: 10.1038/s41422-019-0181-4. Epub 2019 May 27.
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http://www.med.oita-u.ac.jp/seiri1/