研究課題
本研究の目的は、膵β細胞KATP非依存性インスリン分泌機構を解明し、2型糖尿病発症初期段階でのインスリン分泌低下機序を示し、その防止法を確立する事で2型糖尿病の発症自体を抑制する事である。最近2型糖尿病治療薬として1)インクレチン関連薬や、2)G protein-coupled receptor 40受容体作動薬が注目を集め、臨床応用や治験が実施されているが、その作用機序は明らかではない。我々はtransient receptor potentialチャネル(Trp)を介する新規インスリン分泌経路を発見し、1)、2)は本経路を刺激し、インスリン分泌を増強する事を報告してきた。本研究では、糖尿病モデル動物を用い、糖尿病発症前後でのTrp経路の反応の違いの有無を明らかにすることで、糖尿病発症にTrp経路が影響しているかどうかを検討する。そのシグナルの一部にグルコースレセプター刺激が関与するかどうかも検討する。アクティブゾーン蛋白の一つであるELKSが膵β細胞にも発現しており、GLP-1同様インスリン分泌の第1相に影響を及ぼし、糖尿病モデル動物で発現が低下している事が明らかとなったため、H30年度はELKSがTrpチャネルに関与するかどうかを検討した。その結果、ELKSはL型電位依存性Caチャネルと複合体を形成していることが明らかとなり、Trp経路とは無関係であることが分かった。次に我々は、糖尿病モデル動物を用い、糖尿病発症前後でTrpm2チャネルの発現量に差があるかどうかを検討した。その結果、糖尿病発症前後で発現の低下は無いが、電流密度に変化が生じる事が明らかとなった。この結果より、2型糖尿病発症にはTrpm2シグナルの異常が関与している可能性が示唆され、本年度の研究成果により、本経路を解明する事が、糖尿病発症抑制治療の新たな一歩となりうる事が明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
アクティブゾーンタンパク質であるELKSが膵β細胞インスリン分泌をどのように増強するかを明らかにし、報告した。糖尿病モデル動物において、Trpm2チャネルの発現低下は無いが、電流密度に差が生じる事が明らかとなった。今後、シグナルの異常の一部にグルコースレセプターが関与するかどうかを検討する予定である。
当初の研究計画通りに実施予定である。現在糖尿病モデル動物での検討を優先させているが、今後グルコースレセプター刺激に対するTrpm2の反応の差なども検討する予定である。
野生型動物と糖尿病モデル動物のグルコースに対する反応の違いに対する検討を重点的に実施したため、刺激試薬などの購入を次年度に繰り越した。繰り越した予算と当該年度必要分として請求した助成金を合わせ、糖尿病モデル動物の購入、シグナル解明に必要な試薬の購入、備品の修繕費用に使用する。
すべて 2019 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
Cell reports
巻: Jan 29;26(5) ページ: 1213-1226.e7
10.1016/j.celrep.2018.12.106.