研究課題/領域番号 |
18K08525
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
吉田 昌史 自治医科大学, 医学部, 講師 (50528411)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖尿病 / イメグリミン / TRPM2 / インスリン分泌 / 膵β細胞 / 電気生理 / インクレチン |
研究実績の概要 |
新規膵β細胞インスリン(Ins)分泌経路を発見し、2型糖尿病発症前のIns分泌低下機序を明らかにし、2型糖尿病発症抑制薬開発への道筋を示し、その候補となる薬剤を見出したので報告する。2型糖尿病患者は発症前にIns第1相分泌が約50 %低下しその後糖尿病を発症する。つまりIns第1相分泌の低下抑制・回復は糖尿病発症抑制に直結するが、その機序は明らかではない。これまで我々は背景電流の一種であるTrpm2がcAMPを介して、グルコース濃度依存性・インクレチンホルモン依存性に開口し、Ins第1相分泌の形成に重要な役割を果たすことを証明してきた。しかし、2型糖尿病発症前のIns第1相分泌低下にTrpm2機能の低下が関連するかどうかは不明であった。今回我々は、糖尿病自然発症モデル動物を用いた検討を行った。その結果、膵β細胞Trpm2の、グルコースに対する反応性の低下がIns第1相分泌低下、食後血糖値の上昇をきたし、糖尿病の発症に関連する事を証明し、その機序を明らかにした。また、新規糖尿病薬ImegliminがcADPRを介してその障害部位に作用し、Trpm2を介してIns分泌を増強させることを見出し、報告した(Imegliminはグルコース濃度依存性にIns第1相分泌を増強し、その作用はcADPR inhibitor、Trpm2 inhibitor(2-APB)にて消失した。Trpm2-KOマウスにおいてImegliminのIns分泌増強反応は消失した。つまりImegliminはcADPR‐Trpm2を介してIns第1相分泌を増強する事が明らかとなり、cADPR activatorとして本研究に用いた)。本研究成果により糖尿病の診療は「治療」から「発症抑制・未病」へと大きく転換する事が可能となる。新規的かつ重要な発見である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19感染拡大に伴い、臨床業務が増大した点。緊急事態宣言に伴い、研究活動が制限された点。これらにより、当初予定していた実験を計画通りに遂行する ことが不可能であった。しかしながら、昨年度その存在を明らかにした新規インスリン分泌経路の更なるシグナル解析が実施できた点、新規糖尿病薬であるイメグリミンの作用機序を解明し、詳細なシグナルを示し報告した点など、新たな知見が得られた事もあり、総合して「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
GKラットにおける、グルコース‐TRPM2に至るまでの障害部位・シグナル伝達の解明 各種アクティベータ、インヒビターを用いたインスリン分泌測定、TRPM2電流密度測定を継続する。適宜TRPM2-KOマウスを用いた検討を行う。GKラットにて週齢ごとに細胞内cADPR濃度測定を行い、GKラットのTRPM2経路障害とcADPRの関連を明らかにする。cADPRアクティベータとして新規糖尿病薬イメグリミンを用いる。 我々2021年度、イメグリミンがcADPRを介してTRPM2を開口させることを証明している。イメグリミンはGKラットにおいて2型糖尿病発症を抑制する可能性が示唆されるため、可能であれば発症前投与がTRPM2経路に与える影響についても観察する。CD38、NAD+測定も実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大に伴い、臨床業務が増大した点。緊急事態宣言に伴い、研究活動の自粛が求められた点。これらにより当初予定していた実験が遂行できなかった事が主な理由である。2022年度に繰り越し、21年度実施予定であった研究計画を遂行する。
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