研究課題/領域番号 |
18K08527
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
長谷川 奉延 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (20189533)
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研究分担者 |
高田 修治 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, システム発生・再生医学研究部, 部長 (20382856)
鳴海 覚志 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 分子内分泌研究部, 室長 (40365317)
石井 智弘 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 准教授 (70265867)
天野 直子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (70348689)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | MIRAGE症候群 / モデルマウス / 表現型 / 病理所見 |
研究実績の概要 |
我々が疾患概念を確立したMIRAGE症候群(以下本症候群)は、造血異常、易感染性、成長障害、先天性副腎低形成症、性腺症状、消化器症状を主症状とし、責任遺伝子はSAMD9である(Nat Genet 2016, 48: 792-797、http://omim.org/entry/617053)。 本研究の目的は本症候群の病態をin vivoで解明することである。具体的には、変異SAMD9遺伝子を有する本症候群モデルマウスを作成したうえで、その表現型、病理所見、遺伝子発現の変化を解析する。昨年度(研究1年目)は、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集技術により、本症候群で認めたSAMD9点変異 (p.R1293W)をマウスに導入し、タモキシフェンを投与するとp.R1293Wが発現する本症候群モデルマウス(以下モデルマウス)を作成した。本年度(研究2年目)はモデルマウスの表現型および病理所見を明らかにすること目指した。 本年度判明したタモキシフェン非投与モデルマウスの表現型および病理所見は以下の通りである。1.寿命が短い:平均寿命は4.8週である。 2.生存しても体重増加不良を示す: 5週齢での体重は対照マウスの1/2以下である。3.一部の臓器に明らかな異常病理所見を有する:(1)胸腺:高度のアポトーシス、マクロファージ浸潤、リンパ球減少(2)脾臓:赤脾髄のリンパ球減少、濾胞委縮(3)性腺:精巣における精子形成不全と卵巣における閉鎖卵胞増加(4)腸管:腸間膜リンパ節のリンパ球アポトーシス(5)副腎・骨髄:明らかな異常なし(6)肝臓・膵臓・腎臓・大脳・脊髄など:明らかな異常なし 以上より、タモキシフェン非投与モデルマウスはMIRAGE症候群の主症状のうち、免疫系異常、成長障害、性腺症状を有することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、研究代表者(長谷川奉延)が本年度のすべての研究を総括し、研究分担者である石井智弘、鳴海覚志、天野直子の3名がモデルマウスと対照マウスの飼育・表現型および病理所見の解析を担当した。タモキシフェン非投与モデルマウスと対照マウスの表現型および病理所見の解析に関しては、ほぼ順調に進んでいる。 当初予定していなかった結果は、モデルマウスにおけるタモキシフェン非投与下でのSAMD9点変異 (p.R1293W)のleaky expressionである。すなわち、4週齢のモデルマウスの胸腺、副腎、性腺、腸管を含む全身各臓器において、程度の差はあるもののleaky expressionを確認した。したがって、タモキシフェン非投与モデルマウスにおける免疫系異常、成長障害、性腺症状はSAMD9点変異のleaky expressionに起因すると考える。さらに、MIARGE症候群の臨床フルスペクトラムを有するマウスの作出を目指し、当初の予定通り3週齢のモデルマウスにタモキシフェンを投与した。Preliminaryではあるが、タモキシフェン投与モデルマウスにおいて現時点で以下を確認した。1.さらなる寿命の短縮:平均寿命は4週未満である。 2.生存してもさらなる体重増加不良を示す: 5週齢での体重はむしろ減少することもある。3.一部の臓器にさらに明らかな異常所見が付加される(新たに見出された所見のみ示す):(1)腸管:胃粘膜上皮基底部のアポトーシス(2)腎臓:集合管におけるアポトーシス(3)膵臓:腺房細胞のアポトーシス(4)骨髄:リンパ球減少(5)大脳:海馬領域の神経細胞アポトーシス。なお、副腎には明らかな異常なし。すなわち、タモキシフェン投与モデルマウスはMIRAGE症候群の主症状のうち、骨髄異常、免疫系異常、成長障害、性腺症状を有すると考え、研究を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通りタモキシフェン投与モデルマウスの表現型、病理所見の解析を継続する。さらに、病理所見を有する臓器における遺伝子発現の変化を解析する。 一方、タモキシフェン投与モデルマウスの副腎皮質に病理学的異常はない。すなわちタモキシフェン投与モデルマウスはMIRAGE症候群の主症状のひとつである副腎不全を有さないと考えられる。今後タモキシフェン投与モデルマウスの副腎機能を内分泌学的に評価するため、血中ACTHおよびコルチコステロンの測定を行うべく、血清・血漿の保存を開始している。さらに、遺伝子発現の変化をとらえるため、タモキシフェン投与前後の副腎の網羅的mRNAシークエンスも予定している。
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