研究課題/領域番号 |
18K08528
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
上野 隆 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員教授 (10053373)
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研究分担者 |
數野 彩子 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00338344)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | リソソーム / オートファジー / アミノ酸代謝 / β―アラニン / ウレイドプロピオン酸 / ウラシル / スペルミン / アミノ酸トランスポーター |
研究実績の概要 |
リソソームはエンドサイトーシスやオートファジーによって取り込まれた多様な成分の加水分解に特化したオルガネラである。本研究ではこれまで、細胞内タンパク代謝という観点からオートファジーの代謝生理学的意義の研究に携わってきた。オートファジーによるタンパク分解で生成したアミノ酸が糖や脂質の代謝に利用されることを調べる過程で、マウスやラットの肝臓のリソソームにβ―アラニンが多量に存在することを見出した。β―アラニンはタンパク質には含まれないアミノ酸である。したがってリソソームのβ―アラニンはオートファジーとは別の代謝経路で生成し、リソソームに輸送され貯留すると推察された。この仮説に基づき、まずリソソームに存在するβ―アラニンがどのような代謝反応で作られるかを明らかにする解析を行った。 β―アラニンを生成する哺乳動物の代謝系は2つ知られている。1つはピリミジン塩基のウラシルが異化代謝されてウレイドプロピオン酸を経由してウレイドプロピオナーゼ(UPA)反応で作られる。もう1つはポリアミンのスペルミジンやスペルミンから作られる。HepG2, Huh7, BRLなどの肝細胞系の培養細胞やマウスの胚性線維芽細胞(MEF)、HeLa細胞などを使って、様々な条件下でウラシルやウレイドプロピオン酸を加えて24時間から48時間培養、あるいは、スペルミンやスペルミジンを加えて同様に培養した細胞のライセートをスルホサリチル酸処理して遊離アミノ酸をアミノ酸分析計で定量した。しかしながら培地に加えたこれらの前駆体からβ―アラニンが有意に生成することを証明することはできなかった。このことは上記の細胞では既知の2つの代謝経路でβ―アラニンを生成する反応が極めて遅いか微弱であることを示唆する。β―アラニン生成の残る可能性としては食餌に由来する成分として摂取することが考えられ、これをさらに検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまで多様な培養細胞を用いて、主としてピリミジン異化代謝でβ―アラニンが生成される道筋を検証しようと試みてきたが、予想に反して非常に僅かな生成量を確認するに留まった。代謝反応自体非常に遅いことを示唆していると考えられる。明確に代謝的に生成される経路が確証できないことについて、新奇の酵素反応でβ―アラニンが生成される可能性も考えられるので、リソソーム内腔の酸性環境下で他のアミノ酸から作られる可能性を検討中である。一方、実質的な研究成果を挙げるためには、β―アラニンのリソソームへの輸送反応を証明することが必須と考え、最終年度の研究は14C標識β―アラニンを用いたリソソームへの輸送活性測定を集中的に調べることに集中したい。そのために、培養細胞ライセートから、パーコールやOptiPrep密度勾配遠心によってリソソームを分離することを試み、高純度の標品を得ることができた。この標品を用いて、さらに詳細な輸送活性測定条件を詰めている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はリソソームへのβ―アラニン輸送活性を直接証明することで、研究の端緒となったリソソームへのβ―アラニン貯留という現象の分子メカニズムに迫る。高純度リソソームをMg-ATP存在下にインキュベートし、メンブレンフィルターにトラップしたリソソームに取り込まれたβ―アラニン量を測定する。さらに、β―アラニン取り込み反応がイオノフォアやプロトノフォアによって阻害されるか否かによって、輸送活性がリソソーム膜液胞型ATPaseによって形成されるプロトンの電気化学ポテンシャルに依存するか否かを明らかにする。これまで、リソソームへのアミノ酸輸送反応は、リソソームでのタンパク分解で生成されたアミノ酸がリソソームの外側のサイトゾルへ運び出されることにその意義を求められてきた。β―アラニンのリソソームへの取り込み反応は何らかのアミノ酸のリソソーム外への放出と共役する可能性もある。この可能性についても検討を行う。 代謝との関係で興味深いのは、骨格筋や心筋でβ―アラニンが筋収縮を促進する作用を持つことである。C2C12などの骨格筋モデル細胞でβ―アラニンが遺伝子発現やマイオカイン分泌などにどのような影響を及ぼすかについても調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
骨格筋系培養細胞へのβーアラニンによるマイオカイン測定用のキットが高額で、次年度使用額を生じたため。
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