研究課題
GLP-1受容体作動薬は近年臨床応用された糖尿病治療薬で、ブドウ糖応答性にインスリン分泌を促進する薬剤であるが、血管保護作用や腎保護作用を有することで注目されている。今回重岡徹氏は、前立腺癌におけるGLP-1受容体発現が前立腺癌の悪性度予知因子となり、遺伝子治療にも応用できる可能性を示唆する研究結果を報告した。非糖尿病患者から摘出された前立腺癌組織において、GLP-1受容体発現がグリーソンスコアと有意に逆相関することを見出した。ALVA-41細胞というヒト前立腺癌細胞は内因性のGLP-1受容体発現を有していないが、レンチウイルスを用いてGLP-1受容体を強制発現させることで、GLP-1授与体作動薬(Exendin-4)の癌細胞増殖抑制作用を誘導することができた。細胞周期におけるG0/G1期からS期への移行がGLP-1作用によって抑制されており、Rbタンパクのリン酸化の低下も認められた。細胞周期に関連する因子の検討を行ったところ、サイクリンD1の発現の低下も認めたが、主たるメカニズムはSkp2の発現低下に伴うp27Kipのタンパク量の上昇であることが示唆された。非糖尿病ヌードマウスをもちいたXenograftモデルによるin vivoの研究結果においても、強制発現されたGLP-1受容体を介したGLP-1作用が、前立腺癌腫の増大を有意に抑制した。この時、マウスの体重や血糖値には差がないことから、抗腫瘍作用は体重減少作用や血糖降下作用とは独立した作用と考えられた。ALVA-41細胞は骨転移した前立腺癌細胞から確立された細胞株で、比較的特殊な前立腺癌細胞株であるが、実験的によく用いられる前立腺癌細胞株であるPC3細胞でも同様の結果が得られることから、前立腺癌細胞全般的に認められる現象と考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
精力的な研究により、当初予定していた以上のスピードで論文化された。
本研究を支持する研究結果が国内外で続々と報告され始めている。今後は本研究が世に知られるよう学会発表などを精力的に行っていく予定である。また、本研究はモデルマウスを用いた基礎研究に留まっているが、可能であれば倫理的に問題がない程度で介入研究を盛り込んだ臨床研究の発案に向かっていきたいと考えている。
本研究を広く発表するための学会参加費と交通費に使用する予定。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
J Diabetes Investig
巻: 11 ページ: 1137-1149
10.1111/jdi.13247