褐色脂肪細胞(BA)は代謝症候群の予防/治療開発における標的として注目されている。BAは加齢や代謝症候群で減少するが、現行のヒト生体BA量計測技術は手間とコストの観点から普及に制限がある。本研究は、汎用性の高いヒト生体BA測定技術の開発を目的として、ヒトBA量血清マーカーを得るべく、申請者が作製した「ヒト胚性幹細胞由来BA特異的モノクローナル抗体 (IgM)」が認識する血清抗原を同定する。前年までの研究から、目的分子の特異な性質(SDS-PAGE分離後に目的バンドをクマシー染色で可視化すると当該分子がゲルと不可逆的に結合して溶出されない)のため汎用蛋白同定技術は適用できないことが判明した。また当該抗体のIgG化抗体は特異度・感度の低下のため免疫沈降法を適用した純化が困難となることが予想された。そこでIgM抗体での免疫沈降法につき再検討したところ、免疫沈降が不適とされるIgM抗体であっても従来より効率よく沈降できる条件を見出すことができた。現在、大量調製したヒト胚性幹細胞由来BA溶解液を用いて目的分子の純化を進めている。なおCOVID-19対応により大量調製作業に大幅な遅れが生じているため、IgG抗体の免疫沈降サンプルを用いた同定作業も並行して進めている。特異度・感度低下のため沈降サンプルの質量分析では予想外に多数の候補がヒットしたため、複数ロットで解析を行い共通にヒットする候補が得られるか調べた。結果、FABP5が得られたが、IgM抗体はリコンビナントFABP5蛋白を認識しなかったことから、FABP5はBATでは特異的修飾(脂質付加、糖付加、切断等)を受けていることが想定された。現在、大量調製ヒト胚性幹細胞由来BA溶解液を用いたIgM抗体免疫沈降実験を進めるとともに、FABP5のBAT特異的修飾の可能性についても検討を進めている。
|