本研究では膵β細胞の分化誘導に最適な足場材料としてEpCAM(Epithelial Cellular Adhesion Molecule)[カルシウム非依存性細胞接着誘導因子]タンパク質に着目した。EpCAMはヒト脂肪組織由来間葉系幹細胞(HumanMesenchymal Stem Cells from Adipose Tissue: hMSC-AT)にも多く発現することを我々は複数の論文で報告してきた。そのため、膵β細胞の分化誘導に最適な足場材料としてhMSC-ATが候補に上がった。糖尿病患者では免疫力が顕著に低下する。そのため、人工的な膵β細胞の作製は最終的な臨床応用に際して、移植患者が糖尿病によって免疫不全であるケースが想定された。人工膵β細胞の臨床応用では、hMSC-ATを採取するために患者自身の脂肪組織を用いるべきか、それとも健常な他人の細胞を用いるべきか、その判断は悩ましい。その事前の検証を動物実験で行った。本研究では免疫不全マウスと正常マウス由来MSC-ATの細胞抽出液に含まれるタンパク質組成を解析した(論文報告:Identification of Proteins Differentially Expressed by Adipose-derived Mesenchymal Stem Cells Isolated from Immunodeficient Mice.Int J Mol Sci. 2019 20(11) 2672 (IF 3.69))。その結果、驚くべき事に免疫不全マウスから採取されたMSC-ATが発現するタンパク質成分は正常マウスから採取されたMSC-ATが発現するMSC-ATと類似性が極めて高かった。この結果により、臨床用の膵β細胞の分化誘導に最適な足場材料として糖尿病に罹患した患者自身のhMSC-ATが使えることが動物実験で示された。
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