研究課題/領域番号 |
18K08550
|
研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
井上 成一朗 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (70431690)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 小児神経芽腫 / 腫瘍免疫 / 自然免疫 / 免疫チェックポイント遮断 / マウス神経芽腫モデル |
研究実績の概要 |
マウス神経芽腫モデルにおける抗PD-1 PD-L1抗体の抗腫瘍効果の有無と免疫反応の解析を行った。 まずneuro-2a細胞の細胞表面に発現するco-stimulatory moleculeの発現をフローサイトメトリーで確認し、本細胞が免疫原性が低いことを確認した。その上でA/Jマウス(H2-Ka)皮下にマウス神経芽腫細胞neuro-2a(H2-Ka, CCL-131)を接種し腫瘤形成し担癌マウスを作製した。担癌マウスに抗PD-1 PD-L1抗体を経腹腔投与し、腫瘍サイズを経時的に測定した。その結果抗体投与により皮下に形成する神経芽腫の腫瘍結節は免疫チェックポイント遮断の効果により増殖抑制がかかることが確認された。また抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を同時に投与すると、それぞれの抗体を単独で投与した場合と比較して、より強い腫瘍増殖抑制効果が得られることを確認した。 さらに、脾臓、リンパ節、腫瘍局所に浸潤する免疫細胞(リンパ球、自然免疫細胞)の細胞表面抗原の発現をフローサイトメトリーで評価した。脾臓、所属リンパ節における免疫細胞の分布は抗体投与群と対照群(抗体非投与群)と比較して大きな差異は確認できなかったが、腫瘍には抗体投与により腫瘍浸潤リンパ球(TIL: Tumor infiltrating lymphocytes)、およびCD11c陽性の活性化された樹上細胞の浸潤が促進され、腫瘍増殖を抑制する免疫反応に寄与していると考えられた。 上記研究結果は国際学会で発表し、さらにその要旨を英語論文にまとめ、現在国際医学雑誌に投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス神経芽腫モデルにて、腫瘍結節を形成したマウスに対して、抗マウス抗体を投与することで免疫チェックポイントを遮断し腫瘍増殖を抑制することを確認した。これによりマウスを用いた抗腫瘍免疫、特に免疫チェックポイント遮断を用いた実験モデルの確立に成功した。このモデルを用いて免疫遮断治療を行うと、抗腫瘍免疫効果を来す樹状細胞が腫瘍組織に直接浸潤することを実験モデルを用いて証明し、2018年京都で行われた第50回International congress of society of pediatric oncologyで発表した。 この結果は、新たに抗腫瘍効果を持つ樹状細胞の誘導をターゲットとした免疫治療の開発につながる可能性があり有益な研究結果であるとともに、今後の研究推進の基礎となる。樹状細胞がどのように腫瘍浸潤リンパ球に作用するか、そのメカニズムの解析を今後進めていく予定であり、当初の実験計画に対しおおむね順調に研究が進んでいる段階と判断している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後はさらに実験モデルを改良してゆく。同時に特に腫瘍浸潤リンパ球(TIL: Tumor infiltrating lymphocytes)及び腫瘍に浸潤する樹状細胞に注目してさらなる解析を試みる。 免疫チェックポイント遮断による抗腫瘍反応は腫瘍細胞が免疫チェックポイントを介したシグナルを免疫細胞に伝達することで生じる浸潤リンパ球の疲弊(exhaustion)を回避するためと考えられている。我々は本マウスモデルを用いて、免疫チェックポイント遮断を行うことで誘導されることが確認できた腫瘍浸潤リンパ球の機能を解析していく。抗体投与により誘導されるリンパ球の表面抗原、特にCD8陽性リンパ球のExhaustionのマーカーの発現とリンパ球機能の関連を解析し、腫瘍増殖抑制に最も重要なリンパ球をより腫瘍に浸潤させる方法の確立を目指す。同時に抗腫瘍効果を示すCD11c陽性樹状細胞の腫瘍への誘導促進法の開発を目指す。そのためChemoimmunotherapyのコンセプトに立脚した抗がん化学療法と免疫チェックポイント遮断の併用による抗腫瘍免疫反応の相互効果の試みを目指し、成果がされた際にその免疫メカニズムを解析する。得られたデータを基に化学療法と免疫チェックポイント遮断を組み合わせた新しい集学的治療の開発を目指す。 今までに得られた実験データは英語論文にまとめ現在投稿中である。今後さらに得られた研究成果を各種医学学会で発表しながら、国際医学論文として投稿する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度使用予定であった金額のうち、次年度使用額5,084円が生じた。前年度に執行した研究費はおおむね予定通りとなっており、またこの金額は各種試薬、抗体等を購入するには少額である。また現時点で上記金額に相当する研究関連事務用品等で不足しているものがないことを鑑み、本年度の執行を控え、貴重な研究費として次年度研究用試薬・抗体購入の際に執行する予定である。
|