研究課題
腫瘍・非腫瘍細胞間には複雑なクロストークが存在し、その結果産生されるサイトカイン・増殖因子は腫瘍の進展に大切な腫瘍微小環境を形成する。我々は以前、非腫瘍細胞により産生されるケモカインMonocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1)がマウス4T1乳癌細胞の肺転移を促進することを明らかにし、現在MCP-1産生に関わるクロストークの解析ならびに乳癌の進展に関わる新しい分子の同定を行っている。腫瘍内でのMCP-1産生のひとつのメカニズムとして腫瘍細胞由来の増殖因子GM-CSFがマクロファージを刺激しMCP-1産生を促進することを報告したが、このクロストークの阻害は腫瘍内での全MCP-1産生には大きな影響を及ぼさないことを明らかにした。腫瘍細胞と線維芽細胞間に存在するクロストークなど新たなメカニズムの同定を現在行なっている。腫瘍内への白血球浸潤のメカニズムとしてはケモカインのみならずClassical chemotactic factorとそのレセプターに関する研究も欠かせない。Formyl peptide receptor (FPR)は細菌由来のペプチドを認識するレセプターとして発見されたが、細胞由来の内因性の物質も認識する。我々は2つのFPR (FPR1と2)が腫瘍進展に果たす役割りを、FPR1欠損、FPR2欠損、FPR1/2欠損という3種類のFPR遺伝子欠損マウスを使用して解析している。その結果、1) FPR2欠損マウスでは4T1細胞の肺転移が抑制されること、2) FPR2欠損マウスでは腫瘍内へのマクロファージの浸潤が減少していること、3) FPR1/2両欠損マウスでは4T1細胞に対する腫瘍免疫が増強しているのではないかという結果が得られた。これらの研究の成果は将来の乳癌治療のターゲットを同定するために不可欠と考えられる。
2: おおむね順調に進展している
Balb/cマウスとの10世代の継代が3種全てのマウスで完了するなど、研究自体は予定どおりに進行している。昨年度のデータの再解析で腫瘍内に浸潤したマクロファージの数がFPR2欠損マウスでは減少しているようで、FPR2欠損マウスにおける肺転移抑制のメカニズムを示す結果が一部であるが得られた。FPR1/2両欠損マウスを用いた最初の実験において、移植した4T1細胞の拒絶が約30%のマウスで見られた。これらのマウスでは4T1細胞の再移植で腫瘍細胞の増殖が全く見られなかった。この結果はFPRが腫瘍免疫の樹立に関係していることを強く示唆する。一方で、他の70%のマウスではコントロールのマウスと同程度の腫瘍が認められた。我々はこれまで1 x 105の細胞を移植してきたが、細胞数を減らすことによりこの70%のマウスでも4T1細胞の拒絶が見られるのではないかと期待される。この研究は米国NIHのグループとの共同研究、特にマウスが必須である。したがって、研究の更なる進捗にはCOVID-19の早期終息が必要である。
1)上記したように、R1に行った実験により1x105個の腫瘍細胞の移植では出ない差が腫瘍細胞数を減らすことにより認められる可能性が考えられる。 したがって、R2ではFPR1単独欠損、FPR2単独欠損、 FPR1/2両欠損マウスに2 x 104個の4T1細胞を移植し、移植部位での腫瘍細胞の増殖と肺転移を観察する。2)腫瘍内で発現している遺伝子、特に免疫に関した遺伝子各マウス間での発現の違いRT-PCRで検討する。3)腫瘍内に浸潤した白血球を各マウス間で免疫組織化学により比較する。4)既知のFPR阻害剤をWTマウスに注射し、FPR阻害剤により移植された4T1細胞の増殖に影響があるかを検討する。
本来なら学会出席のための費用として使用する予定であったが、日程の都合で予定していた学会に行けなかった。次年度に学会出席あるいは論文掲載のために使用したい。
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International Journal of Molecular Science
巻: 20 ページ: 1-13
10.3390/ijms20246342