研究課題/領域番号 |
18K08576
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山下 奈真 九州大学, 大学病院, 助教 (60608967)
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研究分担者 |
徳永 えり子 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 乳腺科部長 (50325453)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トリプルネガティブ乳癌 / E-cadherin / Vimentin / EMT / collective invasion / 多様性 / 浸潤・転移 |
研究実績の概要 |
乳癌の中でもエストロゲンレセプター陰性、プロゲステロンレセプター陰性、HER2蛋白陰性のtriple negative乳癌(TNBC)は従来より生物学的悪性度が高いこと、早期再発、予後不良という特徴があり、その治療選択肢も化学療法のみと狭いことから、治療に難渋する例が多い。中でも化学療法感受性が低いsubgroupを把握し、特異的な分子標的の同定、新しい化学療法レジメンの模索が重要な課題である。実際の臨床の現場においても、急速な病気の進行を呈する非常に予後不良のTNBCだけでなく、術後補助化学療法なしでも再発せず、長期予後良好な症例も多く経験する。従って、TNBCの多様性について、その分子機序を解明し、予後不良・良好の鑑別に役立つ因子を同定し、予後不良な群に関しては、今後の治療に結びつく標的分子を解明することは非常に重要である。乳癌臨床検体においてvimentinの蛋白発現を免疫組織化学染色にて評価したところ、TNBCにおいてvimentin発現が見られる症例は有意に予後不良であった。更に多変量解析の結果、TNBCにおいてvimentin発現は独立した予後不良因子であることを報告した(Yamashita N et al, J Cancer Res Clin Oncol. 2013)。対象とした乳癌臨床検体においてE-cadherin/vimentin発現パターンを免疫組織化学染色にて評価し、予後の解析を行ったところ、E-cadherin高発現かつvimentin陽性の症例群が最も予後不良であった。更に共焦点顕微鏡でE-cadherin/vimentin発現の局在を解析したところ、一つの腫瘍細胞内にE-cadherin/vimentinが共局在することを明らかにし、報告した(Yamashita N et al, Clin Breast Cancer. 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、乳癌の浸潤様式にも多様性があることが分かってきた(Kevin J C et al. Current Opinion in Cell Biology 2014)。上皮系細胞が間葉系細胞様細胞に形態変化する現象をepithelial-mesenchymal transition(EMT)と呼ぶ。一方、collective invasionでは細胞接着を維持しながら、癌細胞が集塊となって浸潤する。この現象は炎症性乳癌で実際に観察されている。これらの浸潤形態が同時に起こるものか、相互排他的な現象かは未だ不明である。 乳癌臨床検体においてvimentinの蛋白発現を免疫組織化学染色にて評価したところ、TNBCにおいてvimentin発現が見られる症例は有意に予後不良であった。更に多変量解析の結果、TNBCにおいてvimentin発現は独立した予後不良因子であることを報告した。対象とした乳癌臨床検体においてE-cadherin/vimentin発現パターンを免疫組織化学染色にて評価し、予後の解析を行ったところ、E-cadherin高発現かつvimentin陽性の症例群が最も予後不良であった。この結果は乳癌の浸潤転移がEMTのみでは説明できないことを示唆する。原発巣・リンパ節転移のパラフィン切片を用いてE-cadherin、vimentinの蛋白発現を共焦点顕微鏡で局在を解析したところ、一つの腫瘍細胞内にE-cadherin/vimentinが共局在することを明らかにし、報告した。今後はEMTとcollective invasionの違い、subtype別の浸潤様式の違い等に注目してさらに研究を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 浸潤・転移様式の多様性:EMTとcollective invasionの違い、subtype別の浸潤様式の違い等に注目してさらに研究を進めていく。E-cadherin、vimentinの評価を行った症例の中で、リンパ節転移・遠隔転移巣のパラフィン切片を用いてE-cadherin、vimentinの蛋白発現を評価する。原発巣および転移巣でのE-cadherin、vimentin発現パターンの相違、及び発現変化の臨床的意義を検証する。 (2) BRCA機能不全と染色体不安定性:当科にて手術を施行した術前治療歴のない原発性浸潤性乳癌(小葉癌を除外)のうち69例のTNBCおよび161例のnon-TNBCを対象とした。BRCA1プロモーターメチル化解析をCOBRA法にて解析し、11例に認めた。メチル化症例は全例TNBCであった。メチル化症例はBRCA1mRNA、蛋白発現共に有意に低い事を報告した(Yamashita N et al, Clin Breast Cancer. 2015)。今後はBRCA2のメチル化解析、およびゲノム不安定性との関連性を検証する。 (3) リンパ球浸潤と免疫チェックポイント機構:PD-L1染色の条件設定は終了した。PD-L1高発現の症例は無再発生存、全生存いずれも不良である。s-TILsの評価も進めており、治療効果、予後との関連を解析する。 (4) 宿主側因子と乳癌の予後:診断時(治療前)の末梢血検査よりデータ抽出を行い、Prognostic nutritional index 、Controlling Nutritional Status 、血小板リンパ球比、リンパ球単球比、好中球リンパ球比を算出し、臨床病理学的因子および予後との関連を解析する。肥満、腸内細菌叢についてもデータ採取を行い、宿主側因子の乳癌予後に対する影響を検証していく。
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