研究課題
(1)TNBCにおける癌幹細胞性:海外における研究滞在の実績等を踏まえ、TNBCにおける癌幹細胞性を規定する因子を探索した結果、糖蛋白であるムチン1のC末端(MUC1-C)が非常に重要な役割を果たしていることを発見した。MUC1のN末端はがん化に伴いsheddingを受けて血清中に放出され、乳癌の腫瘍マーカーCA15-3として長らく臨床現場で用いられている。一方でC末端は癌細胞に残り、様々なシグナル制御に関わる。TNBCの細胞株を用いたsphereの継代実験において、MUC1-Cはsphere形成能、免疫不全マウスにおける腫瘍形成能を制御していることを発表した。さらにMUC1-Cは継代sphereで解糖系を促進することにより癌幹細胞性を維持していることを発表した。(2)TNBCにおける薬剤抵抗性・免疫回避:海外における研究滞在の実績等を踏まえ、TNBCにおけるMUC1-Cと薬剤抵抗性の関連性について探索したところ、MUC1-CはTNBC細胞株においてインターフェロン経路を強く制御することが判明した。MUC1-Cは細胞質内核酸センサーであるRIG-I、MDA-5、cGAS、STINGを制御する結果、癌細胞における慢性的Type-Iインターフェロン分泌を亢進する。結果、paracrine,autocrineによりインターフェロン経路の下流因子の転写制御が起こる。転写が更新する因子はDNA傷害耐性・免疫回避に関連する因子として知られる遺伝子群が特異的に発現増加していることが判明した。さらに、Type-IIインターフェロン経路のエフェクター因子であるPD-L1、COX2、IDO1の発現を制御することにより、局所免疫の回避を引き起こしていることが判明した。以上よりMUC1-C阻害により、TNBCにおける癌幹細胞性、薬剤耐性、免疫回避を克服できる可能性があることを報告した。
2: おおむね順調に進展している
TNBCの中でも化学療法感受性が低いsubgroupを把握し、特異的な分子標的の同定、新しい化学療法レジメンの模索が重要な課題である。実際の臨床の現場においても、急速な病気の進行を呈する非常に予後不良のTNBCだけでなく、術後補助化学療法なしでも再発せず、長期予後良好な症例も多く経験する。従って、TNBCの多様性について、その分子機序を解明し、予後不良・良好の鑑別に役立つ因子を同定し、予後不良な群に関しては、今後の治療に結びつく標的分子を解明することは非常に重要である。本研究ではTNBCの癌幹細胞性、薬剤耐性、免疫回避の背景に潜む重要な因子としてMUC1-Cが肝要であることを示すことができ、研究計画は概ね順調に進んでいると考えられる。
今後は当院の豊富な臨床検体を用いて、TNBC症例においてMUC1-Cがどの様な臨床的意義を持つか再検証する。免疫染色によるMUC1-Cの染色と予後や免疫チェックポイント阻害剤を含めた抗腫瘍薬への反応性がどの様に関与するか検証する。更にTNBCの臨床検体からオルガノイド、PDXモデルを作成し、 scRNAseq、プロテオミクス、メタボローム解析を通じて、TNBCの癌幹細胞性・薬剤耐性・免疫回避との関連性を検証、および癌幹細胞を標的とした治療法の開発に取り組む。現在、米国Dana-Farber Cancer InstituteのKufe Labと共同し、MUC1-C阻害剤の開発を行っている。
留学先から帰国し、研究室での研究開始環境を整えるのに時間がかかったため、一部助成金しようを次年度に繰り越した。次年度は研究計画に従い、臨床検体の免疫染色、オルガノイド、PDXモデルを用いた研究に助成金を用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 7件、 査読あり 8件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
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