研究課題/領域番号 |
18K08577
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
久保 真 九州大学, 大学病院, 講師 (60403961)
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研究分担者 |
甲斐 昌也 九州大学, 大学病院, 助教 (10755242)
大内田 研宙 九州大学, 大学病院, 講師 (20452708)
中村 雅史 九州大学, 医学研究院, 教授 (30372741)
大西 秀哉 九州大学, 医学研究院, 准教授 (30553276)
水元 一博 九州大学, 大学病院, 准教授 (90253418)
森崎 隆 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (90291517)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ネオアンチゲン / がん微小環境 / 腫瘍免疫 / 乳癌 / 腫瘍遺伝子変異量 |
研究実績の概要 |
2019年6月、がんゲノム医療推進のものとがん遺伝子変異のゲノムプロファイリングとターゲット治療のため、2つの遺伝子パネル検査が保険収載された。今後このドライバー遺伝子変異をターゲットとした分子標的治療が主流となり、その視点抜きに創薬も成り立たない。したがって、難治性・治療抵抗性がんを対象として、コントロールとして血液2ml(白血球)、腫瘍組織の生検・切除による採取と保存(RNAlater使用)によるネオアンチゲン解析は非常に重要な意義を持つと考えられる。 1.情報・試料の管理:今年度は全癌腫で52例、特に乳癌で36症例についてネオアンチゲンの解析を終了し順調に症例を集積している。 2.ネオ抗原の解析:乳癌32例における遺伝子変異量(TMB)、ネオ抗原ペプチド配列、ネオ抗原ペプチドのHLA親和性を評価した。(日本バイオセラピー学会にて発表)。乳癌におけるTMBは、サブタイプに依存し、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)で高値であった。また、がん免疫の担い手である腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の浸潤度スコアやT細胞活性化因子グランザイムBのmRNA量に有意に相関を認め、TMBががん免疫を誘導している可能性を示唆した。さらに、免疫回避機能分子であるPD-L1のTILにおける発現率は、TMBと有意に性の相関を認め、遺伝子変異数が増加するとがん免疫回避機構も活性化する可能性があることを示した。解析の経過で、遺伝子変異の結果としての遺伝子不安定性についても研究を進めた。日本人トリプルネガティブ乳癌におけるコホート228例の研究としてマイクロサテライト不安定性の頻度(0.9%)を明確にした。また、日本乳癌学会におけるレジストリ研究に参画し、ビッグデータを用いたHER2乳癌の予後解析を行い、サブタイプによる予後の相違を明らかにし、HER2遺伝子増幅をはじめとした遺伝子解析の重要性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度に、全癌腫で52例、特に乳癌で36症例についてネオアンチゲンの解析を終了し、順調に症例を集積している。
3.T細胞の機能解析:免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の影響を調べるために、免疫染色にて(1)T細胞の視覚化を行い、末梢血T細胞の活性化をNanoString Technologies社製nCounterのmRNA panelにより813遺伝子について解析し((2)T細胞活性化の評価、(3)発現結果の解析)、森崎らが論文として発表した。がん微小環境の変化について、末梢血においてもT細胞の機能解析が行える可能性を示した。さらに、ICIのバイオマーカーとして注目されるTMBの解析を倉田ら、がん免疫回避機構の担い手であるPD-L1発現についてTILにおける発現率を原田ら、前臨床研究としてがん遺伝子パネルFoundationOne CDxを用いた進行乳癌の遺伝子解析について川地らが、2019年12月米国・サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表した。現在グランザイムBの発現解析については追加して研究を掘り下げている((2)T細胞活性化の評価)。また、昨年同学会で発表した腫瘍浸潤リンパ球の機能解析として転写因子T-betについては、T-bet高発現である腫瘍は化学療法の効果が高く、予後良好であることを2019年森らが論文((2)T細胞活性化の評価)として発表し、T細胞の機能解析に関してはほぼ予定を完了した。
以上より、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
すべての癌腫として目標としていた計50症例は集積を終了した。本年度中に解析可能な限り症例の集積を続ける。さらに、本年は解析した結果を論文で公表し、その意義を明らかにする。乳癌以外の癌腫についても解析し、治療効果の指標となるか評価する。以下の計画を推進する。 4.腫瘍免疫動物モデルの構築 C57BL/6マウスを用いて、マウス乳癌細胞E0771を乳腺脂肪パッドに移植する腫瘍免疫の動物モデルの構築を計画している。 5.前臨床治療試験を開始 (1)ネオアンチゲン・エピトープペプチドの合成(企業に委託予定)(2)樹状細胞ワクチンの作製と治療の実施:in vivoモデル (3)ワクチン投与後の反応解析(Elispot法、Peptide-MHC-tetramer法):in vitroモデル
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次年度使用額が生じた理由 |
ネオアンチゲンの解析をin vitro、in vivoでモデル化し、臨床応用していく。in vivoでモデル化には少し遅れが見られるため。 次年度は、ネオアンチゲン・エピトープペプチドの合成、合成したペプチドを用いて感作した樹状細胞ワクチンの作製とin ivoモデルにおける治療実験、Elispot法によるワクチン投与後の反応解析、動物モデルの構築を行うため、研究費を使用する予定である。 今後、変異抗原遺伝子の腫瘍組織での発現数、ネオアンチゲン・ペプチドの数・ペプチド配列・HLA親和性の評価を行い、それぞれの癌腫の病理組織学的特徴、遺伝子変異情報、治療効果などの臨床情報との突合し、癌腫による相違、様々な治療における効果判定や副作用発現のバイオマーカーとなり得るかを評価する。
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