前年度までの研究結果より、癌組織に形成される酸性微小環境はリンパ管内皮細胞におけるVCAM-1の発現を誘導し、癌細胞との接着を増加させることで転移に促進的に働く可能性が示唆された。そこで令和2年度はリンパ節転移のマウスモデルを用い、VCAM-1の発現変化をin vivoで検討するとともに、抗VCAM-1抗体投与による転移抑制効果について解析した。 悪性黒色腫由来細胞株B16F10-LM6にGFPを安定導入し、C57BL/6マウスの後肢足底部に接種した。対照マウスにはPBSを接種した。4週間後に膝窩リンパ節を採取して解析したところ、転移リンパ節では重量やVCAM-1mRNAの発現が対照群に比較して有意に増加していた。またLYVE-1抗体を用いた免疫蛍光染色により、転移リンパ節におけるリンパ管増生が確認された。 次に、右足底部にB16F10-LM6、反対則にPBSを接種したモデルマウスを用い、抗VCAM-1抗体あるいはコントロールIgGを投与し、リンパ節転移の病態について解析した。患側のリンパ節重量の比較において、抗VCAM-1抗体投与群と対照群の間に有意な差は確認できなかった。しかし、転移を生じたリンパ節の割合を検討したところ、鼠径リンパ節では対照群に比較し、抗体投与群において腫瘍転移が減少する傾向が認められた。さらに、リンパ節における転移腫瘍の面積率を計測したところ、抗VCAM-1抗体群の鼠径リンパ節において腫瘍面積の低下が確認できた。これらの結果は、癌のリンパ節転移において、転移抑制の標的としてVCAM-1の有用性を示唆するものである。また今回の検討では、原発巣に近い膝窩リンパ節ではどちらの群も同程度の転移を認めた。したがって、今後はさらに観察期間を短く設定し、より早期における転移病態を解析する必要があると考えられた。
|