研究実績の概要 |
本研究では、乳癌薬物療法によるdormancy導入の機序解明を目的として、薬物療法によるepigenetic変化やtumor microenvironmentへの影響を検討中である。 術前化学療法後の手術標本にて癌遺残を認めた(non pCR症例)にも関わらず再発を認めない乳癌はdormancy導入された可能性があるものと仮定し、再発症例と無再発症例におけるバイオマーカーの発現を比較検討中である。 現在、2006年5月から2016年12月までに当院にて術前化学療法後に根治手術が施行された早期乳癌のうちnon pCRと判定された115症例を対象に、術前化学療法前後の末梢血分画、乳癌術前化学療法施行前後の乳癌組織における腫瘍免疫細胞浸潤(PD-L1発現の半定量的染色評価)、微小環境変化を評価中である。 全サブタイプを対象とした検討においてNLR高値と予後に有意な相関を認めなかった(高値 vs. 低値; 5年RFS 81.1% vs. 75.7%, p value = 0.89, 5年OS 82.3% vs. 94.7%, p = 0.73)がTNBC(20例)ではNLR高値は有意な予後不良因子として認めた(高値 vs. 低値; 5年RFS 44.4% vs. 100%, p value = 0.0017, 5年OS 44.4% vs. 100%, p = 0.049)。 乳癌術前化学療法前後のPD-L1発現をSP142抗体を用いて評価し、発現の増強を20%の症例に認めることを確認した。今後はPD-L1発現増強の機序を明らかとする。 乳癌微小環境として乳房浮腫に着目し、術前化学療法前後における乳房浮腫の変化および予後に与える影響についての検討を施行中である。乳房浮腫の評価として術前化学療法前後における乳房MRI所見としてT2強調画像による、腫瘍周囲浮腫、乳房皮膚の肥厚、乳房内高信号および腫瘍内壊死の評価を施行中である。これまでの検討において、術前化学療法後の腫瘍周囲浮腫の残存が有意な予後不良因子となることが確認された。一方で、腫瘍周囲浮腫の発生・残存の機序は明らかとされていないため、対象症例の検体を対象に原因機序の解明に努める方針である。
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