研究課題/領域番号 |
18K08589
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小川 真一郎 信州大学, 医学部附属病院, 特任教授 (30419353)
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研究分担者 |
増田 雄一 信州大学, 学術研究院医学系(医学部附属病院), 助教 (60467149)
小山 誠 信州大学, 医学部附属病院, 助教(診療) (80712778)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ヒトiPS細胞 / 胆管細胞 / 3次元培養 / オルガノイド / 薬剤スクリーニング |
研究実績の概要 |
2015年に発表した胆管分化誘導のプロトコール(Ogawa, et al, Nature Biotechnology 2015)では、ヒトiPS細胞より機能胆管分化誘導する場合には、3次元培養条件下における胆管organoidsの作成が必要であった。この培養系では3次元培養を長期間継続するため最終分化段階での細胞数の減少が問題であった。1ヒトiPS細胞あたり(per one human iPS cell)、約2細胞の胆管細胞が分化誘導されるという効率であった。必要数の胆管細胞をヒトiPS細胞より効率よく確保するため、ヒト胆管特異的抗体(4D9抗体)を用いてフローサイトメトリー解析を通して分化誘導プロトコールの改良を行った。ヒトiPS細胞由来肝臓前駆細胞を用いてEGFなどを含む増殖因子やWntシグナルなどを活性、非活性化する低分子化合物を添加し、6日間培養後でヒト胆管4D9抗体陽性をきたす培養条件のスクリーニングを行った。その結果、単層培養条件下でCFTR陽性、胆管特異的遺伝子発現、一次繊毛を発現し、分化効率として1ヒトiPS細胞あたり、約40-60細胞の機能的胆管細胞の培養に成功した。この新規培養系では、 cystic fibrosis患者iPS細胞由来の胆管細胞を96穴プレート下でCFTRmodulatorを用いたハイスループットの薬剤スクリーニングが可能になった。さらに、コラゲナーゼ処理後3次元培養を行うことで、高効率で3次元胆管オルガノイド(胆管Cyst)が作製でき、CFTR機能を評価するためオルガノイド内のcAMPシグナルを活性化すると、オルガノイドの膨張(Swelling)を認めた。In vivoの機能評価として、この細胞を免疫不全マウスの肝臓、腎臓皮膜下に移植すると内部にヒト一次繊毛を伴う管腔構造を認め機能的胆管細胞の移植に成功した。現在論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CFTR活性や、一次繊毛を伴う機能的な胆管細胞を数の上でも効率よくiPS細胞より作製できたことは今後の様々なアッセイの樹立に向けて大きな進歩である。この成果を現在論文投稿準備中である。またトロント大学の工学部との共同研究ではすでに人工胆管チューブの作製また、胆管構造をデザインした3次元胆管組織を作製中であり、研究期間中にさらなる成果を発表できると考えている. 胆汁排泄を伴う培養系を構築するには、肝細胞が存在することが重要であるがiPS細胞由来肝細胞自身も機能的に成熟化する必要があるという結果を得た。我々はiPS細胞由来の肝細胞の分化誘導においても成熟化の検討を行っており、この検討事項に対しても、我々の過去の知見が有益であると考えられる。さらに生体内の肝臓内で胆汁排泄は門脈圧にも相関しているため、従来の静置培養系のみでは限界があると考えられ、微小循環還流培養系の樹立を視野にいれ検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
今回の成果で、期間内で胆管構造がプリントされたiPS細胞由来肝臓組織を構築できる準備が整ったと考えられる。今後は、in vitroの実験系として、胆汁排泄を伴う機能評価系を構築するには、従来の静置培養系で果たして可能であるのか、それとも微小循環を伴った還流培養系が必要であるのかを早急に検討する必要ある。また還流培養系が必要であった場合には、どのようにして胆管オルガノイド、肝組織に還流培養を付加するか検討をする必要があると考える。In vivoの実験系ではすでに胆管単独で免疫不全マウスの肝臓内に同所性にiPS細胞由来胆管細胞移植に成功し、さらに腎臓皮膜下にも異所性に管腔構造を伴う胆管細胞の移植に成功しており、今後はiPS細胞由来肝細胞との共移植を行いin vivoで胆汁排泄が伴うかどうかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
先にも述べたように、胆汁排泄を伴う系を作製する場合には、静置培養系では限界があると考えられ、今後は微量還流培養系の構築が必要である可能性もあり、この培養系を構築するポンプ等の購入に使用額を当てる必要があると考えられる。
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