膵神経内分泌腫瘍(pNET)は膵島細胞から発生する稀な腫瘍である。緩徐な経過を示す症例から急速な悪化を示す症例まで多様性に富む。肝臓に転移を来すことが多く、そのような状態になると根治は望めない。分子標的薬による治療が臨床に導入されているが、治療効果はまだ限定的である。近年、腫瘍免疫の重要性が注目されてきており、pNETにおいても腫瘍浸潤リンパ球に代表される腫瘍免疫の多様性が示され、悪性度の高い腫瘍において抑制されていることが報告されている。我々が開発したグルカゴン遺伝子ノックアウトマウスにおいては、ヒトのpNETに組織学的また、生物学的態度が酷似した腫瘍が膵臓に発生し、肝転移および腹膜転移を来して腫瘍死する。このモデルでは腫瘍浸潤リンパ球がほとんど認められないことが、肝転移を高率に起こす要因の一つとして推測される。そこで、このモデルにおいて腫瘍免疫の状態を解析し、さらに腫瘍免疫を賦活することにより、肝転移抑制・生存期間延長が可能かどうかを検討する。 前年度までの研究計画のなかで挙げた、モデルマウスに生じたpNETの原発巣および肝転移巣における腫瘍免疫機構の活性化評価については、摘出した原発巣および肝転移巣における、腫瘍浸潤リンパ球に対してCD3 (Tリンパ球全体の表面抗原)、CD4(ヘルパーT細胞表面抗原)、CD8 (細胞傷害性T細胞表面抗原)、FoxP3(Treg特異的タ ンパク)などを認識する抗体を用いて免疫組織化学的に検討を行っているが、染色条件の設定などが定まらず、有意な結果は出せなかった。 またもう一つの、免疫チェックポイント機構については、原発巣、転移巣の腫瘍細胞におけるPD-L1の発現、TILにおけるPD-1の発現についても免疫組織化学的に検討を試みたが、これも同様な理由により、結果を出すに至らなかった。
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