1型糖尿病根治治療である膵島移植において、現状の免疫抑制療法は、膵島毒性と移植後血管新生阻害作用を有しており、新たな免疫抑制療法の開発が必要である。MEK阻害剤は、Allo反応性T細胞を選択的に抑制し、さらにMEK/ERK経路の阻害は耐糖能を改善しうる可能性があることが報告されている。膵島移植マウスモデルにおいて、MEK阻害剤がAllo免疫応答を制御しうるかを検証した。 マウス(BALB/c)の同種膵島をSTZ投与により誘導した糖尿病モデルマウス(C57BL/6)に経門脈的に移植を行い、MEK阻害剤群では移植直前から移植後28日目までTrametinibを経口投与した。MEK阻害剤群(0.1および0.3mg/kg)は、Vehicle群と比較してグラフトの生存期間が有意に延長した。MEK阻害剤群では、リンパ球による移植片の細胞浸潤が有意に抑制され、レシピエントのナイーブCD4+T細胞の機能分化を抑制した。また、移植部位である肝臓内では、IL-2、TNFα、IFNγをコードするmRNAの抑制とIL-4およびIL-10の増加も確認された。すなわちMEK阻害剤は、膵島移植レシピエントのCD4陽性T細胞を介した機能分化を抑制し、移植部位である肝臓内でのアロ抗原に対するTh1/Th2免疫応答を調整することで拒絶反応を回避している可能性が示された。 異種あるいはES/iPS由来膵島細胞移植の臨床応用のために、肝臓門脈内に変わる新たな移植部位として皮下移植の開発が望まれており、この知見を皮下移植モデルへ展開するため皮下膵島移植モデルでの検討を開始した。しかし皮下移植の生着においては、移植前血管誘導と誘導に伴う皮下局所の非特異的炎症反応の制御が重要であることが明らかとなり、拒絶反応の制御以前に皮下への移植膵島生着条件の解明が必要であると考え、新たなアプローチを検討している。
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