研究課題/領域番号 |
18K08603
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
住吉 秀明 東海大学, 医学部, 講師 (60343357)
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研究分担者 |
遠藤 整 東海大学, 医学部, 講師 (10550551)
岡村 陽介 東海大学, 工学部, 准教授 (40365408)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミズクラゲコラーゲン / 皮膚再生医療 / 再上皮化促進剤の開発 / 医療応用 / ナノテクノロジー |
研究実績の概要 |
人工真皮は欠損した皮膚創傷を充填し修復させる医療マテリアルであり、最も成功している人工臓器である。しかし既存の人工真皮は細胞の生着に時間を要し、特に上皮形成が起こらないことが長年問題となっていた。申請者らはマウスのモデル実験においてミズクラゲコラーゲンがこの再上皮化と細胞の生着を促進し、皮膚再生を著しく改善することを見出した。①再上皮化促進のメカニズムを解明する事、②有効成分を単離・精製する事、③足場を提供する人工真皮のコラーゲン格子構造を再生促進成分により、最適な皮膚の再生体を形成するようにデザインする事、これらを解決して次世代の医療技術とすることが研究課題の到達目標である。 今年度は研究初年度であり研究基礎の確立と試行の実施に重点を置いた。取組みとして、まず①ではマウスモデル実験でみられる再生促進上皮を抗体染色と電子顕微鏡で詳細に観察した。クラゲコラーゲンによって再生される上皮組織は特徴的に薄く速く伸長しClaudin-1の強い発現が特徴的にみられた。さらにヒト初代表皮角化細胞を用いたin vitro実験系では、クラゲコラーゲン添加群に特徴的な細胞の接着強化とアクチンストレスファイバーの発達が見られることが明らかとなった。②においては限定ペプチダーゼにより細分化したミズクラゲコラーゲンをHPLCにより分離した。続いて①のin vitro実験系をスクリーニング系として応用し、特徴的形態を与える活性分画の選別が可能となった。③では、より真皮に近い構造に再生出来る、多孔質・線維性コラーゲンの構造を組み合わせた素材を開発することが出来た。これらは現在進行形であり、実験結果を受けて次の展開をデザインし、改良点の抽出を行なっている。 ①と②の実験はリンクしており、生物学的効果の差異の解明が有効成分の分別、探索・評価に繋がっている。これらは次年度への展開にとって望ましい傾向である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画が萌芽的な要素を持ち、1年目は出来る・出来ない事を分ける研究テーマになっており、ここに約1年半~2年にかけてのスパンで計画していた。その中で ①クラゲコラーゲン成分による表皮細胞に与える変化を薬理的な効果として検出できた事、②クラゲコラーゲン分解物から効果単位を分離できた事、③より生体耐久性のあるコラーゲンスポンジ素材を開発した事など、各項目において順調に成果が得られている。現時点で実験計画はほぼ計画通りに進行している。良い事として、初年度からミズクラゲ由来の再生促進成分が低分子として得られた事がある。これで異種タンパク質としての弊害を回避でき、最低限の目標に到達できる公算が大きくなった。この事は次年度の更なる精製操作と化学合成による創薬に向けての原動力となる。③においては、化学架橋を導入する試みについて、課題が残されているが、架橋行程の見直しも含めて2年目の取り組みとなる。あとは動物を用いた長期実験事例の積み重ねであり、初年度の試みにおいての諸問題の洗い出しと解決策の実施は果たされたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の計画は基本的には前年度に引き続いて、再生促進成分の濃縮・同定を進めるのが中心となる。1年目の定義、①再上皮化促進のメカニズムの解明。②表皮再生有効成分の精製・同定。③より生体に近い人工真皮の形状。に加え、④長期動物実験による効果の検証が本格的に導入される。①では、ミズクラゲコラーゲン、ブタコラーゲン、添加物無しの各培養条件で、ヒト初代表皮角化細胞の遺伝子発現の変化をマイクロアレイ法で調べる事と、クラゲコラーゲンにより動いているシグナル系の探索を行なう。②は、精製された再生促進のための成分ピークに異なる原理のHPLCカラムを導入し成分を限定した上で、TOF Massや1H-NMR等を行ない、分子構造の解析を進める。さらに分離成分を用いてのin vitro, in vivo両面でのバイオアッセイを行ない、効果を確認する。③は現行コラーゲン担体に技術的付加を行なう。例として、超薄膜ナノシートを用いた人工基底膜の形成、コラーゲンスポンジ内に細胞を活性化する薬剤を内包させる等を計画している。④ 長期観察動物実験モデルは、ほぼ確立しているが、これをもとに糖尿病モデルマウスを用いて、慢性創傷治癒のモデル設定を行なう。2年目は有益性の検証と動物実験による治療モデルの確立に重点を置く。可能性のある技術の取捨選択、組み合わせによってより高い完成品を目指すことがメインになる。検証の要素を一通り行い、改善点をフィードバックして3年目に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:今年度は進捗状況で上述したとおり、実験進行が概ね予定どおりに進行したことから、使用額はほぼ予定どおりであった。次年度使用額が生じたのは、年度末期の不測の事態による予算発動の可能性(機器の突発的な不具合など)に備えた想定の範囲にとどまるものである。
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