研究課題/領域番号 |
18K08606
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
柴田 雅朗 大阪医科大学, 医学部, 准教授 (10319543)
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研究分担者 |
伊藤 裕子 大阪医科大学, その他部局等, 功労教授 (40148432)
谷口 高平 大阪医科大学, 医学部, 助教 (70779686)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | nSM2 / siRNA / miRNA / 乳癌 / 転移前ニッチ / 転移 |
研究実績の概要 |
昨年度に決定した有効なsiRNA配列を、本年度はpBAsi-mU6 Neo vector(Takara Bio)に挿入し、新たにnSM2-siRNA発現ベクターを作製した。本ベクターでは、遺伝子導入の24および48時間後において、有意なnSM2の発現低下が観察され、マウスを用いた治療実験に使用出来るベクターが完成した。 透過型電子顕微鏡を用いて、BJMC3879Luc2移植乳癌で、エクソソームが産生されていることを確認した。また、センチネルリンパ節のリンパ洞にもエクソソームを観察した。しかし、センチネルリンパ節で見られたエクソソームが腫瘍細胞由来である確証がない事から、マウス乳癌細胞にpCT-CD63-GFPベクターを安定的に組み込み、GFP蛍光をもつエクソソームを分泌する乳癌細胞を作出した。次年度は移植乳癌にnSM2-siRNA発現ベクターを用いた遺伝子治療実験が行える態勢が整った。 miRNAを用いた実験では、miR-X(今回、個別の名称を控えて表現する)がMAPK/ERK経路およびPI3K/Akt経路を抑制することから抗脈管新生作用を有すると考えられ、複合治療のツールとしての可能性を予備実験にて確認した。実験は、マウス移植乳癌に本miRNAを500 nMおよび1000 nMの濃度で遺伝子導入した。対照群はスクランブル配列を遺伝子導入した。腫瘍径を3および7日後に測定し、遺伝子導入の7日後に屠殺剖検し、病理組織学的に解析した。腫瘍径では、1000 nM群において、遺伝子導入の7日後に対照群と比較して、有意な抑制が示された。乳腺腫瘍細胞の増殖能解析のため、PCNA免疫組織染色を施し、陽性率を算出した。その結果、1000 nM群で有意な抑制が示された。このことから、本miRNAはnSM2-siRNA発現ベクターとの複合治療のツールとして有望であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に構築したpAAV-U6-ZsGreen1 Vectorを用いたnSM2-siRNA発現ベクターが上手く働かず、本年度はベクターをpBsi-mU6 vectorに変更し、再構築を行った。その結果、乳癌細胞株において、nSM2発現の有意な抑制効果が発揮され、マウス乳癌モデルを用いた転移抑制実験に本ベクターを使用することが可能となった。nSM2-siRNA発現ベクターの構築については1年遅れとなったが、次年度にマウスを用いた転移抑制実験を行う。 BJMC3879Luc2移植乳癌において、乳癌細胞がエクソソームを産生していることを電顕的に観察した。腫瘍細胞が分泌するエクソソームが種々の機能的分子を内包し、エクソソームが転移予定先臓器にそれらを運搬し、前転移ニッチを形成し、転移を成立させることが提唱されている。そこで、BJMC3879Luc2乳癌細胞にpCT-CD63-GFPベクターを染色体に組み込み、GFP蛍光を発するエクソソームを分泌する乳癌細胞を作出(BJMC3879Luc2-CD63-GFP)した。この移植乳癌細胞を用いれば、本当に腫瘍細胞が分泌したエクソソームがセンチネルリンパ節に到達したかどうかが判明する。BJMC3879Luc2-CD63-GFPの移植乳癌細胞を活用して、エクソソーム分泌に関わるnSM2遺伝子のノックダウンと転移との関わりが解析出来ればと考える。 複合治療に用いる抗脈管新生が期待されるmiRNAでは、miR-Xについて(今回、個別の名称を控えて表現する)、転移性マウス乳癌モデルを用いた1週間の予備実験を行った。その結果、強い腫瘍増殖の抑制効果が示され、腫瘍細胞のPCNA陽性率でもそれを裏付けるデータであった。これらの事実から、乳癌転移を最大限に抑制することを目指し、次年度に本miRNAをnSM2-siRNA発現ベクターとの複合治療実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
転移性マウス乳癌モデルにおいて(出来ればBJMC3879Luc2-CD63-GFP乳癌細胞の移植モデル)、nSM2-siRNA発現ベクターによる乳癌転移抑制実験を実施する。また、miRNAを用いた実験アプローチでは、miR-Xを用いて(今回、個別の名称を控えて表現する)、乳癌転移の強力な抑制を狙って、nSM2-siRNA発現ベクターとの複合治療実験を行う。これらから採取された全身の諸臓器について病理組織標本を作製し、転移の有無を病理組織学的に解析する。また、腫瘍組織を用いて、血管新生と血管侵襲(CD31免疫組織染色)、リンパ管新生とリンパ管侵襲(LYVE-1免疫組織染色)、増殖能(PCNA免疫組織染色)およびアポトーシス(TUNEL反応)の解析を行う。さらに、乳癌組織とセンチネルリンパ節については、パラフィン包埋薄切切片よりRNA抽出を行い、エクソソーム関連のmiRNA解析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に構築したpAAV-U6-ZsGreen1 Vectorを用いたnSM2-siRNA発現ベクターが効果的に作用しなかったことから、siRNA配列の有効性を確認するための実験を繰り返し実施した。その結果、ベクター自身に問題があることが判明し、pBsi-mU6 vectorに変更し、nSM2-siRNA発現ベクターの再構築を行い、本ベクターの検証に時間を要した。これが原因で研究の遅れと次年度使用額が生じた。 次年度は再作製したnSM2-siRNA発現ベクターをマウス乳癌モデルに遺伝子導入し、治療実験を行う。続いて、miRNAとの複合投与を行い、乳癌転移の抑制作用の増強効果をみる。
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