研究課題/領域番号 |
18K08627
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
松原 修一郎 鹿児島大学, 総合科学域総合研究学系, 准教授 (60199841)
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研究分担者 |
新地 洋之 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60284874)
高尾 尊身 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, 客員研究員 (80171411)
下野 隆一 香川大学, 医学部, 准教授 (60404521)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 膵臓癌 / CD133 / エクソゾーム / microRNA / mTOR / KRAS / Akt |
研究実績の概要 |
本年度はエクソゾームを用いた標的療法における標的分子の検索に力点をおいて研究をすすめた。 セリン / スレオニン・キナーゼmTORは、細胞内で2種類の異なった複合体mTORC1およびmTORC2を形成して働いている。mTORC1に作用する阻害剤ラパマイシンが幹細胞マーカーCD133陽性の膵癌細胞Capan-1M9のviability、sphere形成(自己複製能の指標)、足場非依存性増殖(悪性度の指標)を抑制することを明らかにしていたが、mTORC1およびmTORC2の両方に作用する阻害剤KU-0063794の作用について詳細に検討し、これをラパマイシンと比較した結果、KU-0063794がより強力に幹細胞性を抑制すること、また、ラパマイシンの濃度依存性をみた時に観察されるplateauがKU-0063794ではみられないことが示された。 このような違いが阻害剤作用のどのような差によるかを明らかにするため、両者で処理した細胞のAkt/mTOR経路のシグナル変化を調べた。ラパマイシン処理細胞ではmTORC1下流のシグナルが抑制されるとともに、Aktのリン酸化が亢進していた。一方、KU-0063794処理細胞ではmTORC1下流のシグナルは抑制されていたが、Aktのリン酸化は認められなかった。AktのS473はmTORC2によってリン酸化されると報告されており、また、S473とT308のリン酸化がAktの活性化に重要とされているので、フィードバック機構を介したAktのリン酸化にmTORC2が関与しているものと考えられた。 mTORC1阻害による幹細胞性の抑制にAktが関与しているかを確認するため、ラパマイシンとAkt阻害剤を同時に投与したところ、plateauが消失しより強力な幹細胞性の抑制がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題を進めるにあたって、京都で開かれた細胞外小胞の指導的国際学会ISEV2019に参加した。多くの最先端の報告がされ、また、非常に活発な討議がなされ、大変勉強になった。 その際第1日目のEducation dayのSession 4 Therapeutic Application of Stem Cell EVsにおいて、米国のKalluri, R. らのグループの発表があった。彼らは変異型KRASを標的としたsiRNAを発現するように遺伝子組み換えをした間葉系幹細胞を用いて治療用エクソゾームつくらせ、これを膵癌患者に投与する方法を追及している。すでに、バイオリアクターを用いてgood manufacturing practice (GMP)レベルのclinical-gradeエクソゾームの大量生産に着手しているとのことであった。会場でKalluri教授とも話したが、膵癌でエクソゾームの取り込みが亢進するのは、KRASの変異によるとの考えであったが、KRASを標的とすることで治療効果がおちることはないということだった。 彼らの研究が非常にすすんでいることから、本課題の研究において独自性を維持するために全体の計画を再検討する必要を痛感した。当初の計画に含まれていた(最終的に) 間葉系幹細胞を用いて短鎖抑制型RNAを産生するという考えは、基本的にはKalluri, R. らのグループと同じであり、この方法に関する実験は縮小し、本年度はKRAS以外の新たな標的分子の検索に力を入れることとした。この結果、mTORC1の阻害とともにフィードバック機構によって起こるAktの活性化を抑えることが膵癌幹細胞の抑制に有効であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
この課題の研究の流れは、1) 癌幹細胞にエクソゾームを投与することによって幹細胞性を抑制する、2) 癌幹細胞マーカーCD133陽性細胞とノックダウン細胞の産生するエクソゾームを解析し、両者の違いを手掛かりに癌幹細胞の抑制法を探る、の2つがある。本年度は、1)の観点から標的分子検索および作用機作について調べた。今後は、短鎖抑制RNAの配列決定とともに実際にエクソゾームを用いて細胞に作用させる方向となる。また、昨年度は、2)の観点からCD133陽性細胞とノックダウン細胞が周辺の細胞に異なった作用をもつことを明らかにした。こちらも最終的には癌細胞のつくるエクソゾームを分離し解析することになる。 今後の推進方法としては、まず、膵癌細胞を用いてエクソゾームを分離精製し、CD133陽性細胞とノックダウン細胞の違いを生化学的および細胞学的に検討する。次に、正常細胞(治療用エクソゾーム産生母細胞)、さらには遺伝子組み換え細胞(治療用エクソゾーム産生細胞)よりエクソゾームを分離精製して性質を調べるとともに、その作用を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のように、ISEV2019に参加した結果研究計画を見直すことになった。この間、本課題の独自性につながると考えられた新たな標的分子の検索およびその作用機作については実験をすすめ、この点については論文にまとめられる見通しとなったのでこれを先に投稿することにした。 この見直しによる計画の変更と論文投稿作業が予想より手間取ったため次年度使用額が生じている。今後は「研究の推進方策」にも書いたように膵癌細胞を手始めにエクソゾームの分離精製および解析の実験をすすめるので、これに使用する。また、上記論文についても必要な追加実験が終わり再投稿の目途がたってきたので掲載料としても使用する。
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