研究課題/領域番号 |
18K08637
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
鈴木 利宙 帝京大学, 公私立大学の部局等, 講師 (50530135)
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研究分担者 |
中面 哲也 国立研究開発法人国立がん研究センター, 先端医療開発センター, 分野長 (30343354)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ネオアンチゲン / シングル細胞解析 / TCR遺伝子 / トランスクリプトーム解析 / 自己腫瘍反応性 / 遺伝子マーカー / 遺伝子治療 / TCR導入T細胞療法 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、再発率の高い肝胆膵領域がんと転移性肝がんにおいて、ネオアンチゲンを標的としたがん免疫療法が有効か検証し、多様性を保持した固形がんに対し、有効ながん免疫療法を提案することを目的とする。WES解析ならびにRNA発現解析から腫瘍特異的変異を抽出し、MHC binding予測アルゴリズムにより、各患者のMHCに提示されうるネオアンチゲンの候補を選択した。2019年度、予測されたペプチドを合成し、患者PBMCを用いてその抗原性の評価を行ったところ、200種類のうち数個の反応性を示すネオアンチゲンペプチドを同定することができた。現在、腫瘍内T細胞のシングル細胞解析と併せて、ネオアンチゲンペプチド特異的反応性T細胞の腫瘍内での同定を進めている。 Chromium(10xGenomics社)を用いて、単一細胞レベルで腫瘍内T細胞のTCR遺伝子を同定し、同時に遺伝子発現プロファイルを解析可能なパイプラインを樹立した。昨年度に引き続き、肝細胞がん5例について腫瘍内から分離したTILの解析を行い、分離した自己腫瘍応答性CD8 T細胞のTCR遺伝子を決定し、その腫瘍内での遺伝子発現プロファイルを抽出した。TCR遺伝子解析の結果から、腫瘍内PD-1陽性分画は、正常部組織と異なった多様なレパトア構造を保持しており、自己腫瘍反応性分画はそのうち主要な分画を占めていることが明らかとなった。また、肝細胞がんのPD-1陽性分画は、組織常在性のメモリー細胞様の遺伝子発現パターンを持ち、その一部は、疲弊化マーカーを高く発現していた。我々は、腫瘍内の自己腫瘍応答性分画の同定に有用な遺伝子マーカーの候補を複数見出しており、現在、前向きにさらに症例を収集し検証を進めるとともに、同定した自己腫瘍反応性TCR 遺伝子をT細胞に発現させ、その機能の評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画では、以下の①~⑦までのマイルストンを設定し研究を進めている。 ①腫瘍内浸潤T細胞より、自己腫瘍反応性分画を分離しそのTCRを同定する。②同定したTCRを持つCTLの腫瘍浸潤T細胞中の頻度を測定する。③マイクロダイセクション法により、がん組織から腫瘍部と腫瘍間質部を分離しTCR配列の解析を行い、同定した自己腫瘍反応性CTLが腫瘍に浸潤しているか検証する。④個々の患者におけるがんの遺伝子変異や遺伝子発現プロファイルを決定し、ネオアンチゲンの候補を予測する。⑤正常部ならびにがん部の遺伝子発現プロファイルより、がん部で発現が高い共通がん抗原の候補を選択し、同様にその抗原性を評価する。⑥腫瘍内より分離した自己腫瘍応答性CTLが、予測されたネオアンチゲンや共通がん抗原を認識できるか検証する。⑦多重免疫染色により、腫瘍内環境を評価し、がんの抗原性や自己腫瘍反応性CTLの頻度との関連を調べる。 当初予定していた①~⑦のマイルストンの内、①~④および⑦について、昨年度までに達成することができた。現在、⑤および⑥について進めるとともに、得られた成果を個別化TCR-T細胞療法へ応用するべく、研究を引き続き継続している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題で得られた成果の今後の展開として、基礎研究と臨床応用の2つに大別される。基礎研究への展開として、腫瘍応答性T細胞の遺伝子発現プロファイルの解析から、腫瘍内T細胞の疲弊化メカニズムの解析を継続して行っていく。これまでの成果から、自己腫瘍応答性T細胞は、既知の疲弊化マーカーを高発現する分画とは異なった分画に位置することが明らかとなった(投稿準備中)。今後、その詳しい生物学的意義について解析を進め、新規治療標的の探索に繋げていく。 本研究計画の臨床応用への展開として、我々は国立がん研究センターの中面ら、ブライトパス・バイオ株式会社との共同研究により、転移性肝がんを標的としたネオアンチゲンペプチドワクチンの第I相臨床試験を計画しており、肝細胞がんに続き、転移性肝がんのネオアンチゲン同定を進めている。新規ネオアンチゲン予測アルゴリズムを開発し、予測したネオアンチゲンをHLAトランスジェニックマウスにワクチンし、in vivoでの免疫誘導能の検証を行った結果、予測したペプチドの約4割で免疫誘導が確認されている。さらに予測精度を高めるべく、得られた結果を学習データとしてアルゴリズムの改良を進める。本研究の成果から、T細胞のTCR遺伝子とトランスクリプトーム解析を同時に行うことで、複数の遺伝子マーカーを用いて腫瘍内から直接、自己腫瘍応答性T細胞のTCR遺伝子を濃縮・単離することが可能となる。得られたTCR遺伝子をT細胞に発現させる目的で、現在、mRNAを用いたエレクトロポレーション法による遺伝子導入系の開発を進めている。本研究課題の成果に加え、一過性の遺伝子発現によるT細胞機能の改善や、TCR-T細胞療法による抗腫瘍効果誘導が可能となれば、患者個別に自己腫瘍反応性TILを分離し治療に用いる「個別化T細胞療法」の実現に向けて大きく前進できると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、国立がん研究センターから帝京大学に異動した。一時的に研究を停止せざるを得なかったため、予定使用額が余剰となった。今年度、新たに立ち上げた研究室の消耗品費として研究に使用する。
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