研究実績の概要 |
ほとんどの膵癌は膵管上皮から発生、充実性腫瘤を形成して浸潤・転移を起こしやすい膵管腺癌(PDAC)である。PDAC細胞の浸潤・転移は、癌化した細胞が上皮間葉転換(EMT)することによって誘導されると考えられてきた。最近、膵癌モデルであるKPCマウスにさらにEMT誘導遺伝子であるSnailまたはTwistを欠損させたKPCマウスにおいても、PDACの浸潤・転移がKPCマウスと変わらず誘導されることが報告された(Nature, 527, 2015, Nature, 547, 2017)。これらの結果は、PDAC腫瘍細胞にはEMTを介さないアグレッシブな浸潤・転移のメカニズムが存在することを示唆されており、極めて悪性度の高いPDACの病態理解への根本的な大きな変革が要求されている (Nature, 547, 2017)。申請者らは、EMTを起こす前段階の上皮形質を保ったPDAC細胞がダイナミックな組織運動極性を持った癌細胞集合体組織(微小腫瘍)への自発的分化を誘導するマイクロナノ基板を発明(特願2017-725121)した。これにより、in vitroにてアグレッシブな挙動を示すPDAC微小腫瘍のライブイメージングが可能となり、上皮形質のままPDAC細胞が集団化し、一つの組織として、あたかも飢えた多細胞生物のように這えずり伸張する様子をライブで捉えることに成功した。このダイナミクスに関わるであろう細胞集団(組織)としての、未知なるEMTを介さないPDACの浸潤・転移機序を明らかにし、それに関わる分子メカニズムを解明することは、次世代の革新的なPDAC治療法の開発につながると考えられる。本研究では、その分子機序を解明することにより、EMTを介さない浸潤・転移機序を明らかし、その革新的な視点からPDAC治療のための新規標的因子を探る。今年度は、膵癌細胞の細胞集団化による難治性に関する論文とマイクロナノ基板の論文を発表し、マイクロナノ基板の発明については、国内外で広く報道された。
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