研究課題
本助成をいただき、われわれは大腸がん原発巣における予後再発といった転移再発の有無が腫瘍免疫応答の違いにより規定されているかについて明らかにする。また、腫瘍免疫応答が再発と関係した場合、A)元々遺伝的背景で規定されているか?B) 局所のSNVによるneoantigenなどにより支配されるか?特に最も重要な因子は何なのかを明らかにしたい。具体的には、Stage I、II大腸癌の再発しなかった8例と再発を来した8例の原発巣のWhole Exome Sequence(WES)およびSNPアレイを行い、転移巣形成と遺伝子変異、コピー数変異の相関について検討した。続いて、再発を来した10例で原発巣と転移巣それぞれのWESを行い、原発巣から転移巣形成までのゲノム進化の様式を検討した。さらに、原発巣と転移巣のRNAシーケンス、T cell repertoire シーケンス を行い、発現差異解析とT cell レパトア解析で転移巣での癌微小環境と腫瘍免疫応答の変化を検討した。その結果、将来的に再発を来した症例の原発巣は非再発の原発巣にくらべてCNAが有意に高いことを明らかにしたが、遺伝子多型等に違いはなかった。なお、TCGAのRNA Seqデータによると大腸がん原発巣の特定の染色体におけるfocalなコピー数変異とCYTとは有意に逆相関を来しており、CNAに伴い発生する腫瘍免疫応答の逓減が将来の転移再発に重要であることを示唆した。さらに原発巣と転移巣におけるゲノム変異とRNA Seqを比較したところ、ゲノムに関しては特に「転移巣特異的ゲノム変異」や、包括的ゲノム変異を認めなかった(もちろん原発巣におけるCNAやdriver変異は転移巣にまで引き続き持ち越される必要条件である)。再発と最もよく相関したのは、neoantigenよりもTCRレパトアの多様性であり、大腸がんの転移再発には腫瘍免疫応答が極めて重要であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
上記内容の論文について現在PLoS Genet誌に投稿中であり、付随した研究についても投稿準備中である。本研究の命題である『腫瘍免疫応答が再発と関係した場合、A)元々遺伝的背景で規定されているか?B) 局所のSNVによるneoantigenなどにより支配されるか?転移再発を規定する上で最も重要な因子は何なのかを明らかにしたい』という問いに関しては、宿主側・転移巣の局所腫瘍免疫応答、特にT細胞受容体の多様性にあることを明らかにした。
これまでの研究においてわれわれは、原発巣におけるCNAやdriver変異は転移巣にまで引き続き持ち越される必要条件であるが、転移再発の時期を決めるのは転移(予定先)巣における腫瘍免疫応答のレベルにあることを明らかにした。今後、この研究を発展させるために、われわれはふたつの方向性を勘案している。ひとつは臨床的有用性の追求である。転移の早期検出(診断)を行うために腫瘍免疫応答を勘案した上での最善の方策を探索する。具体的には、循環血液中に漏れ出る癌細胞または宿主側免疫細胞由来のcell free DNAのメチル化を検出することである。特に後者の宿主側 腫瘍免疫関連分子のいくつかはメチル化により発現制御されていると考えられておりcfDNAのメチル化分子のうち、特にその頻度が高い領域を絞り込み特定できれば、digital PCRで安価に頻回持続的な検査が可能になる。この様な癌腫特異的な(できれば免疫関連分子)メチル化マーカーを同定し、経時的にフォローするアッセイシステムを構築する。もうひとつは、大腸発がんにおける腫瘍免疫応答の関与である。すなわち発がんは免疫寛容を惹起した上で実現するとかんがえられるが、MSI-H大腸腫瘍(リンチ症候群)では、TMBが高く高度のNAGを示す免疫賦活化状態にありながら、発がんすることが知られている。すなわち、リンチ症候群における大腸発がん機構の解明は、一般に消化管粘膜において免疫応答を凌駕しての発がん機構の解明の端緒となることを確信している。既に、われわれはこの様なリンチ症候群 大腸がん腫瘍を用いた解析に現実的に着手しはじめており興味深い結果を得つつある。
次年度、実験消耗品で使用予定。
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