研究実績の概要 |
R1年度にiTRAQ法を用いて58As9株とMKN45株間でミトコンドリアタンパク発現量を比較し、MKN45株が58As9株に比し発現量の多い5種類のタンパクを抽出したが、ウェスタンブロットでのvalidationでは不一致の結果であった。そこでR2年度は、視点を変えてmieap発現がなく低酸素下で高浸潤能を示す58As9株の浸潤能責任遺伝子を同定することを立案した。まず、過去の論文で癌細胞の低酸素環境下での浸潤能亢進に寄与する遺伝子を探索したところ、RhoA, AMFR, ROCK1, S100A4, uPAR, MMP-1, MMP-7, MMP-14, c-MetおよびLOXL2が候補遺伝子として挙がった。次に低酸素下で高浸潤能を示す58As9株と低浸潤能株MKN45を用いて上記した10候補遺伝子のmRNA発現をRT-PCRにて解析した。その結果、MMP-1 mRNAのみが58As9株で低酸素にて発現誘導された。58As9株ではMMP-1遺伝子が低酸素環境においてHIF-1により転写誘導されると想定された。そこでこの推測を証明するために58As9株を用いてMMP-1KD株を樹立し、HIF-1KD株とともにMMP=1のRT-PCRを行った。その結果、HIF-1KD株およびMMP-1KD株は、58As9親株に比し、MMP-1の低酸素誘導発現が消失していた。さらにHIF-1KD株、MMP-1KD株共にin vitro浸潤能は親株に比し激減した。以上より、58As9株においてMMP-1は低酸素環境下での浸潤能亢進の責任遺伝子であること、さらにはHIF-1のターゲット遺伝子であることが明白となった。一方では、MMP-1発現がなく低浸潤能を示したMKN45においてMMP-1無発現の機序を解明するために5-aza-dCおよびTSAをMKN45に添加し、MMP-1の発現を解析したところ、5-aza-dC+TSA併用投与によりMKN45のMMP-1発現復帰が見られた。これよりMKN45においてはMMP-1の無発現はepigenetic gene silencingによることが明らかとなった。今後、胃癌切除標本を用いてMMP-1発現と癌悪性度および患者予後に与える関連性を解析していく予定である。
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