研究課題/領域番号 |
18K08652
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
齋藤 元伸 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (90611749)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 胃癌 / CDX2 / IL-6/STAT3シグナル |
研究実績の概要 |
CDX2はヘリコバクター・ピロリ菌感染によって誘導され、胃粘膜の腸上皮化生を引き起こし胃癌の発生に関与する。申請者は胃癌細胞株を用いた実験で、CDX2発現はIL-6/STAT3シグナル活性化によって抑制されることを報告した(Saito. Oncol Lett. 2017)。これは炎症に伴う胃癌の発生経路において、NF-κBとIL-6/STAT3シグナルという二つの異なるCDX2の制御機構があることを示している。しかしながら、NF-κBはIL-6/STAT3シグナルの活性化も実は引き起こすことから炎症に起因するCDX2を介した発癌は予想以上に複雑な系であり、未だ検討の余地があると思われる。ピロリ菌感染によるNF-κBによるCDX2高発現は胃癌発生の初期と推察されるが、一方でIL-6/STAT3シグナルによるCDX2抑制は胃癌発生後に行っているのかもしれない、つまり、CDX2は胃癌の発生過程において時期に応じて発現が上下しているのかもしれない、という学術的な問いが浮かんでくる。胃癌切除検体と手術前後の患者血清を用いてCDX2発現と炎症のメディエーターの発現(IL-6/STAT3シグナルとピロリ菌感染)を検討する必要性があると考えられ、患者血清の採取と胃癌切除検体の収集を進めている。現在までに、約30例の患者血清と切除検体を収集することが出来、ELISAでのIL-6測定と免疫染色でのCDX2発現の評価を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析に用いる症例の検体を集め始めることができたことと、臨床病理学的因子の収集を始めることができた。患者血清をもちいての血清IL-6量の測定を始めた。
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今後の研究の推進方策 |
CDX2の発現とCDX2の発現を調節しうる因子の発現の相関を検討する。ピロリ菌感染に起因するNF-κBによるCDX2発現誘導の経路とIL-6/STAT3シグナルの活性化によるCDX2の発現抑制の経路を念頭において解析をすすめる。検体採取と同時に臨床病理学的情報の収集、ピロリ菌感染の有無、採血での測定因子(CEAやCA19-9といった腫瘍マーカー)についても情報を収集する予定のため、これらの因子とCDX2の発現との相関も同時に検討する。聴取によってピロリ菌の感染の有無が不明であった場合は、抗ヘリコバクター・ピロリ抗体(B047101-2, Dako)を用いた免疫染色にて感染の有無を評価する予定である。CDX2は血清サイトカインであるIL-6によって抑制的に制御されていることが細胞実験結果から示唆されているため、患者血清において同様の発現制御機構があるかどうか検討する。昨年度、少数ではあるが患者血清をもちいて血清IL-6 を測定し、ELISA法にて測定できることを確認したため、さらに症例数を増やして測定を進めることにする。また、CDX2発現は胃癌の癌特異的生存率と優位に相関することから、独立した胃癌症例群を用いて、その予後バイオマーカーとしての有用性を検証することも本研究の目的の一つである。CDX2は大腸癌ステージIIとIIIにおいて化学療法の治療効果バイオマーカーとして有用との報告があるため、本研究においても同様の方法で解析をおこない、胃癌術後化学療法の治療効果バイオマーカーとしての有用性を検討する。以前の検討に加えて、追加の検証群である胃癌症例約200例程度を抽出して、CDX2の免疫染色を行いその発現を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
血清サイトカイン測定用のELISAキットの購入をおこなったが、少数例での予備的実験をおこなったため購入量がすくなかった。当初の予定通り物品費の多くは免疫染色用の備品購入や血清サイトカイン測定用のELISAキットの購入、さらには細胞実験用の備品に用いられる予定である。また、情報収集や解析結果を学会発表する費用や論文として公表する費用に充てられる。
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