研究課題
神経堤細胞(Neural crest、NC)は脊椎動物の発生過程で神経管と表皮外胚葉との間に形成される構造であり、そこから全身に細胞が遊走し神経・軟骨細胞・メラノサイト・平滑筋など様々な細胞に分化する。神経堤細胞の機能不全は神経堤症(Neurocristpathy)と呼ばれ、腫瘍の他に心臓・腸管の機能不全や発達障害・先天奇形など様々な疾患の原因となる。Hirschsprung病も神経堤症の一つで、腸管の動きを制御する腸の神経節細胞の形成不全により、生後数日の間に機能性の腸閉塞症状がみられる。本研究は、microRNAの発現調節によって神経堤細胞に分化する方法の確立、ヒト多能性幹細胞にゲノム編集技術を応用し神経堤症疾患モデルを構築することを目指している。本年度はRET遺伝子へCRISPR/Cas9を用いて変異を導入した細胞を用いて神経堤細胞に分化誘導し、さらに神経細胞のへの分化誘導をおこない病態を再現できるかを試みた。分化誘導した細胞を可視化するために、恒常的なプロモーターで発現誘導される蛍光蛋白質を導入した細胞を作製した。また、神経への分化誘導効率との関連を調べるために、ヒト多能性幹細胞特異的マイクロRNAであるhsa-miR-302 clusterをノックアウトした細胞作製を試みた。
2: おおむね順調に進展している
神経堤細胞の分化は、Fukuta et al. (2014)に従い、低分子化合物(SB431542とCHIR99021)を用いておこない、PAX3、TFAP2A、NGFRなどの発現を定量PCRで分化誘導の成否を確認した。1週間程度で上記マーカー遺伝子が発現したヒト多能性幹細胞から神経堤細胞を分化することができた。また、その神経堤細胞から、神経細胞のマーカー遺伝子であるMAP2陽性細胞の分化誘導に成功した。また、PiggyBACベクターシステムを用いて、CMVプロモーターで発現誘導されるEGFPもしくはTurboRFP遺伝子をコードした配列をヒト多能性幹細胞に導入し、未分化状態および分化誘導後も蛍光蛋白質の発現が陽性であることを確認した。CRISPR/Cas9システムでのゲノム編集技術を用いてhsa-miR-302をノックアウトするため、 hsa-miR-302 clusterの上流と下流にgRNAを設計した。ノックアウトを可視化するために、Clusterの上流と下流の配列の間に蛍光蛋白質遺伝子をコードしたドナーベクターを作製しgRNAとともにコトランスフェクションした。現在位のところ、hsa-miR-302 clusterのヘテロノックアウト細胞の作製に成功している。
樹立した変異導入ヒト多能性幹細胞および元のIsogenic lineから神経堤細胞に分化誘導し、さらには神経細胞に分化誘導することで、変異導入により分化誘導効率の変化を確認する。また、神経細胞の遊走性に違いがみられるかについても解析する。神経堤細胞特異的マーカーを導入したhPSCを作製する。神経堤細胞特異的に発現する転写因子SOX10がその発生維持の鍵となる。またその下流に位置するPHOX2Bは神経堤細胞由来の自律神経系の構築に重要である。PHOX2Bのスタートコドン上流およそ1200塩基対に発現をコントロールしているプロモーター領域が存在するので、そのプロモーター下流に蛍光タンパク質をコードしたウイルスを作製し細胞に感染させることでPHOX2Bレポーター細胞を作製する。最終的には、小腸オルガノイドの蠕動運動様の動態、神経堤細胞特異的マーカー遺伝子の発現などで病態を評価する。hPSCから分化した神経堤細胞と病態を再現した小腸オルガノイドを共培養することで病態の改善が見られるか顕微鏡下で観察する。移植細胞の生着や生着後神経細胞への分化傾向を示すか遺伝子発現、免疫染色等で確認する。特に内在性の神経堤細胞と外部から導入した神経堤細胞の動態を比較することで、移植細胞の機能性を評価できると考えている。
理由:試薬の納品が遅れたため使用計画:消耗品を購入する。
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Regenerative Therapy
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